絵画や彫刻といった伝統的な表現形式と異なり、メディア・テクノロジーを駆使した新しいタイプの美術作品の総称。具体的な表現形態としては、ビデオ・アート、コンピュータ・グラフィクス(CG)、サウンド・インスタレーション、ライト・アート、ネット・アート(インターネット上に構築されるアート作品の総称)などがその範囲に含まれる。類義語としてはテクノロジカル・アートやインタラクティブ・アートが挙げられるが、このうち後者はインターフェースを通じて観客が参加することを作品の成立要件とするジャンルなので、メディア・アートの一領域として考えるほうがより適切である。
「媒体」を意味する「メディア」は本来表現に対応する概念であり、新種のメディアが開発されるたび、それを芸術表現に生かそうとする試みはいつの時代でも行われてきた。印刷技術の発展や写真技術の開発は芸術表現に大きな変化をもたらしたし、バウハウスのような工房での実験も豊かな成果をもたらした。第二次世界大戦後も、アレグザンダー・コルダーやジャン・ティンゲリーらによるキネティック・アートの制作、派手な幾何学パターンを導入したビクトル・バザレリらのオプ・アート、照明機材の光をインスタレーションに活用したダン・フレービンらのライト・アートなどは、それぞれの時代における最先端の表現の可能性を追究したメディア・アートとして考えることができる。
そして1980年代以降、メディア・アートの展開はコンピュータをはじめとする最先端のデジタル・メディアの発展と軌を一にしたため、メディア・アートとコンピュータ・アートがほぼ一体化し、同義語となっている。これは、パソコンの普及に伴いツールとしての活用が容易になったことに加え、インターネットを利用した空間拡張やバーチャルリアリティの導入など、コンピュータがもたらす無限の可能性が多くのアーティストの想像力を刺激したことが大きな原因である。その結果として、従来なら美術作品とは思われないような大がかりな機械仕かけの作品が制作、発表される機会も増えた。
欧米では、デジタル・メディアを活用した美術作品の制作が1980年以後盛んになり、多くのアート・フェスティバルが開催され、またドイツのZKMのような専用施設も開館している。取り組みの遅れていた日本でも、文化庁メディア芸術祭が開催され、また97年(平成9)東京にNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)が開館するなど受け入れ態勢が整った。99年には東京芸術大学に先端芸術表現科が新設され、本格的なメディア・アート教育も開始されるなど、メディア・アートは徐々に市民権を獲得してきた。だがデジタル・メディアを主な制作素材とするメディア・アートはオリジナルとコピーの区別が成立しない点で旧来の美術とは決定的に異なっているうえ、作品評価もまだ技術偏重の観を免れない。メディア・アートの本質を理解し、安易なテクノロジーの礼賛や忌避に陥らない、冷静で客観的な評価基準の確立が必要である。
[暮沢剛巳]
『京都造形芸術大学編『情報の宇宙と変容する表現』(2000・角川書店)』▽『三井秀樹著『メディアと芸術――デジタル化社会はアートをどう捉えるか』(集英社新書)』
(山盛英司 朝日新聞記者 / 2007年)
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…静止画やアニメーション,SFXを駆使した映像的な作品,空間や装置を使った展示・体験型作品(インスタレーション),そしてインターネット上のアートやCD-ROMのようにデスクトップ上で見ることができるマルチメディア作品である。アプローチ方法によって,ディジタルアート,メディアアート,サイバーアートと呼ばれる場合もある。 〈コンピューターアート〉という言葉が使用されはじめたのは,1968年にイギリスで始まった〈サイバネティックセレンディピティ〉展が世界各地で巡回開催されてからと考えられているが,この展覧会には,プロッター出力されたモノクロの図形やビデオアート,初期のシンセサイザーによる音楽なども含まれ,実験的な要素が強かった。…
※「メディアアート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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