モダンタイムス(その他表記)Modern Times

デジタル大辞泉 「モダンタイムス」の意味・読み・例文・類語

モダン‐タイムス(Modern Times)

米国の映画。1936年作。監督脚本主演チャップリン。工場労働で正気を失い失業した男を主人公に、機械文明と経済至上主義を批判した作品

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改訂新版 世界大百科事典 「モダンタイムス」の意味・わかりやすい解説

モダン・タイムス
Modern Times

1936年製作のアメリカ映画。チャールズ・チャップリン製作・脚本・監督・主演。《街の灯》(1931)と《チャップリンの独裁者》(1940)の間につくられた作品で,チャップリンはせりふなしで意味不明の歌詞を歌って声のみ聞かせる。音楽(作曲もチャップリン)とサウンド入りのパート・トーキー作品で,〈チャップリン芸術〉がサイレントからトーキーへ移行するはざまの重要な作品である。

 冒頭に〈モダン・タイムスとは産業社会とその中での個人の努力--幸福を追いもとめて戦う人間の物語である〉という字幕が出る。機械化された資本主義社会における人間疎外を告発し,機械による人間の奴隷化を風刺的に断罪する。巨大なベルトコンベヤシステムによる近代工場がチャップリン映画にあらわれるのはこれが初めてであり,浮浪者チャーリーから脱皮したチャップリンが,作業衣を着た工場労働者として登場する。形は昔ながらのスラプスティック・コメディだが,工場閉鎖,ストライキ,失業,街頭デモ等々,1930年代アメリカの慢性不況の冷厳な現実が描かれる。

 しかし,アメリカではチャップリンの〈政治的信念〉を疑う保守主義者たちから攻撃され,ドイツイタリアでは公開禁止になった。フランスでは評価もされヒットもしたが,ヒトラーの右腕といわれたナチ宣伝相ゲッベルスの画策で,ドイツ資本のフランス映画会社〈トビス〉から,冒頭の工場のベルトコンベヤシステムのシーンは〈トビス〉製作のルネ・クレール監督作品《自由を我等に》(1931)からの無断盗用であると訴えられた。しかしクレール監督は〈盗作〉の事実を否定し,尊敬している芸術家チャップリンの〈創造〉にもし自分の作品が参考になったとすればこのうえない幸福であると言明し,訴えは却下された。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モダンタイムス」の意味・わかりやすい解説

モダン・タイムス
もだんたいむす
Modern Times

アメリカ映画。1936年作品。38年(昭和13)日本公開。製作・脚本・監督・主演・伴奏音楽作曲チャールズ・チャップリン。タイトル・バックは時計の文字盤。現代の人間が時計に支配され、労働者はあたかも機械の一部分のごとくベルトコンベヤーから流れる商品に向かって同じ労働を繰り返す。人間性はすでになくなっている。チャップリン扮(ふん)するチャーリーは気が狂い入院。退院するや職を失い、同じく父と死別の孤児の娘と協力して働き口を探す。娘がレストランのダンサーとなり、彼女の助けで給仕人になるが、歌を歌えと主人に命じられ、歌詞をカフスに書き込むが、飛び出した瞬間それを失い、世界に通ぜぬ即興の「ことば」で歌う。サイレントに固執したチャップリンは、ここでも台詞(せりふ)のないサウンド版として発表したが、上記の一か所だけで処女作以来初めて画面から「声」を発した記念的作品。共演は彼の三度目の結婚相手のポーレット・ゴダード。資本主義社会への風刺、トーキーへの皮肉をも込め、工場、デパート、囚人生活、あらゆる現代社会をみせながら、その風刺は厳しい。

[淀川長治]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モダンタイムス」の意味・わかりやすい解説

モダン・タイムス
Modern Times

アメリカ映画。チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーションズ,ユナイテッド・アーチスツの 1936年作品。監督,脚本,音楽,主演チャールズ・チャップリン。ねじ工場の流れ作業の過酷さから一時的に正気を失って失業し,さらには誤解がもとで投獄された男が,出所後に出会った薄幸な少女と苦労を重ねながらも明日を信じて新たな出発をするまでを描いた作品。機械文明と資本主義社会を痛烈に批判したチャップリンの代表作の一つ。トーキー嫌いの彼が初めてその声を聞かせた作品でもある。

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デジタル大辞泉プラス 「モダンタイムス」の解説

モダン・タイムス〔映画〕

1936年製作のアメリカ映画。原題《Modern Times》。チャールズ・チャップリン監督・主演のコメディー。チャップリンの代表作のひとつ。共演:ポーレット・ゴダード、チェスター・コンクリン、ヘンリー・バーグマンほか。

モダンタイムス〔小説〕

伊坂幸太郎の小説。2008年刊行。2005年刊行の中編小説「魔王」の世界観を引き継ぐ作品。

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世界大百科事典(旧版)内のモダンタイムスの言及

【チャップリン】より

… すでにそのころアメリカではトーキー映画時代を迎えていたが,チャップリンは最後までトーキーに反対し,映画は〈純粋に視覚的な新しい芸術形式〉であると信じ,〈映画は沈黙の芸術である〉,トーキーは〈世界最古の芸術であるパントマイムを亡ぼそうとしている〉とも語っている。 チャップリンの喜劇は,感傷的な人道主義にとどまっているとはいえ,資本主義に対する小市民の反抗の表現であるという評価もあるように,《街の灯》から5年後,自分で作曲した音楽を入れたサウンド版の《モダン・タイムス》(1936)では,〈現代資本主義と近代的テクノロジーのもとでの人間疎外〉を告発し,のちに〈赤〉の嫌疑でアメリカから実質的に追放される最初のきっかけとなった。最初のトーキー《チャップリンの独裁者》(1940)では,トーキーそのものの〈暴力性〉を逆用して〈世界人類の敵〉ヒトラーとそのファシズムを弾劾,つづく《チャップリンの殺人狂時代》(1947)では戦争と独占資本を攻撃したため,〈共産主義者〉として下院非米活動委員会に喚問される直接のきっかけになった。…

※「モダンタイムス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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