日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本主義社会」の意味・わかりやすい解説
資本主義社会
しほんしゅぎしゃかい
capitalist society
資本の蓄積のために生産が行われている社会であり、資本家階級と労働者階級という二大階級の対立のなかで、前者が支配している社会である。資本主義社会は、階級社会であるという点では、奴隷制社会、封建制社会と同じであるが、階級支配が経済外的強制によって行われるのではない点で、また支配が共同体に基礎を置いていない点で、これらの社会とは異なる。
資本主義社会は、まず第一に商品生産者の社会である。各人は生産手段を私的に所有し、私的労働の産物である商品を相互に等価で交換する。この商品交換の面からみれば、資本主義社会は自由で平等な市民社会ということができる。商品交換は、強制によってではなく、自由意思によって行われる。また、交換において両者の立場は平等で、等価なものが交換されるのであり、暴力や脅しで他人のものを奪うことはできない。しかし、資本主義社会が商品生産者の社会一般とは異なるのは、その社会のなかに特殊な商品所持者が存在するからである。この特殊な商品とは労働力商品である。すなわち、自ら生産手段をもたず、売るべき他の商品をもたない者は、残された唯一の商品である労働力を売らざるをえない。商品としての労働力とは、その人のもっている労働する能力であり、買い手は、その労働能力を買って実際に労働させることができるのである。
こうして、一方には、自分は直接には労働せずに、他人の労働力を買って労働をさせ、その労働の産物を商品として販売し、利潤を得る資本家が生まれ、他方では、労働力を売ったからには働くよりほかはない労働者が大量につくりだされ、商品生産者の社会は資本主義社会に転化することになる。労働者と資本家とは、労働力商品の売買においては対等であるが、売買が行われたあとでは対等ではない。労働者の労働は自由な私的労働ではなく、労働力の買い手である資本家による消費の過程にほかならず、その労働は資本の意思と計画のもとに置かれるのである。
このように、資本主義社会にあっては、労働者は労働過程においてはその自由意思を奪われ、労働の成果は自分のものになるのではなく、資本家のものとなる。資本主義社会では交換における自由と平等が、生産の現物における強制と搾取とに結び付いている。
[河村 望]
『K・マルクス著、向坂逸郎訳『資本論』全9冊(岩波文庫)』▽『K・マルクス著、城塚登・田中吉六訳『経済学・哲学草稿』(岩波文庫)』