1931年製作のフランス映画。《巴里の屋根の下》(1930),《ル・ミリオン》(1931)に続くルネ・クレール監督のトーキー第3作で,トビス社の作品。逃げ込んだ蓄音機工場の社長に出世した脱獄囚が社長の地位を捨て,刑期を終えて工員になっていた刑務所仲間と2人で〈自由〉をもとめてあてのない旅にでるいきさつを,機械が人間を支配する近代的な工場を刑務所の非人間的な労働と対比して描きながら資本主義社会と機械文明を風刺する。工場の流れ作業による労働の描写はチャップリンの《モダン・タイムス》(1936)に影響を与えたといわれ,実際チャップリンの作品が公開されたとき,当時ナチスのゲッベルスに支配されていたトビス社は,チャップリンが《自由を我等に》のアイデアを剽窃(ひようせつ)しているとして著作権侵害の訴訟を起こしたが,証人に立たされたクレールは逆にチャップリンの映画から人物のヒントを得ていることを認め,もし《モダン・タイムス》が自分の映画からヒントを得ているなら光栄に思うと証言し,訴訟は取り下げられた。ラザール・メールソンによる人工的な舞台装置が形づくる抽象的な空間のなかで,人物たちはジョルジュ・オーリックの軽快で親しみやすい音楽につれてマリオネット(操り人形)のような動きを示し,映画全体の動きがバレエのようなリズムで統一されていて,そこにクレールの主題があったともいえる。レーモン・コルディ,ポール・オリビエら,初期のクレール映画の常連が活躍している。のどかな人間賛歌の映画として愛されるかたわら,〈自由〉をもてあそぶ〈破壊的な映画〉としてハンガリーとポルトガルでは上映が禁止されたという。
執筆者:蓮實 重+柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス映画。1931年、ルネ・クレール製作・監督・脚本作品。刑務所を脱走したルイとエミールのその後の人生を描く喜劇。エミールが経営することになるオートメーション化された蓄音機会社は、人間を搾取する資本主義の象徴として描かれ、それから自由になって生き続ける2人の姿は、1929年の世界恐慌以降のヨーロッパの知識層に支持された。ジョルジュ・オーリックの軽妙な音楽とラザール・メールソンLazare Meerson(1897―1938)の簡潔な美術も好評。フランスではあたらなかったが、日本では1932年(昭和7)に公開されてヒットし、その年のキネマ旬報ベストテンの第1位となった。チャップリンが『モダンタイムス』(1936)を発表したとき、ベルトコンベヤーのシーンなどがこの映画を想起させたため、製作会社のトービスはチャップリンを訴えたが、監督のルネ・クレールは「尊敬するチャップリンに真似してもらえたのなら光栄です」というコメントを出した。
[古賀 太]
…次いでダダイズム的雰囲気の濃厚な《幕間》(1924)では,マルセル・デュシャン,フランシス・ピカビア,マン・レイ,マルセル・アシャール,エリック・サティらの協力を得て,純粋映画cinéma purと呼ばれた映像の実験の成果を見せた前衛的作品をつくり上げるが,真に国際的な名声を獲得したのはそのトーキー第1作《巴里の屋根の下》(1930)のヒットによってであり,続く《ル・ミリオン》(1931),《巴里祭》(1932)などで視覚的なギャグと音響効果からくる独特の喜劇的世界を築いて注目された。《自由を我等に》(1931)や《最後の億万長者》(1934)の〈ギャグによる文明批評〉(例えば大工場の流れ作業=ベルトコンベヤシステムの人間性疎外のイメージ,ニワトリで支払うと卵でおつりがくるという物々交換の原始経済国家で一文なしの〈億万長者〉が独裁をふるう等々)はチャップリン(《モダン・タイムス》1936,《チャップリンの独裁者》1940)に影響を与えたとさえいわれた。クレールの世界的名声の確立に貢献した1930年代初期のこれらの作品は,いずれも亡命ロシア人ラザール・メールソン(1900‐38)の美術による人工的なパリをオープンセットにした作品で,メールソンの助手であった亡命ハンガリー人アレクサンドル・トローネル(1906‐93)を通じて,プレベール=カルネ(ジャック・プレベール脚本,マルセル・カルネ監督のコンビ)の〈詩的リアリズム〉の作風の基盤を築いたものであった。…
※「自由を我等に」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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