洋服などの手首を覆う部分の総称。英語のcuffの複数形で、左右一そろいで使われるため、カフスとして日本語に定着した。日本語では主としてワイシャツなどの洋服の袖口布(そでぐちぬの)をさすが、本来の意味は多様で、ズボンの裾(すそ)、手袋、ブーツなどの折り返し部分や長手袋の腕回り、袖カバー、手錠(てじょう)などの意がある。中世にはミトンや手袋をも意味した。
[田中俊子]
カフスは北方系衣服に特有のものだが、西洋服飾においてその発生は、袖がタイトになった15世紀に、袖の末端を折り返したことにある。当初は保温のため、婦人服に毛皮のカフスが多く用いられた。その後、男子服や上層階級では装飾要素が強くなり、シャツにもレースや亜麻の装飾的なものが施されるようになった。16世紀、ひだ襟ラフruffの登場とともに、近世以降はこの傾向が明確になり、豪華なレース・カフの流行をもみ、イタリアやフランドルのレース産業を発展させた。レース・カフはルネサンスからバロック期の地厚な暗色系の表着に装飾効果を大いに発揮した。17世紀に基本的な男子服となった膝丈(ひざたけ)のコートでは、折り返ったカフは装飾として重要な意義をもち、近代まで不可欠のものとなった。同期のシャツには、ラッフル(ひだ飾り)やレースのカフがつけられた。肘(ひじ)丈になった婦人服の袖口にはとくにたいせつな装飾となり、18世紀には、幾重にも重ねて飾られた。このような近世のカフスは労働に携わらない上層階級や貴族のシンボルともなった。フランス革命を境としてこの傾向は廃れ、通常の男子の表着からは姿を消し、フロックコートやモーニングコート、背広の袖口の飾りボタンとして名残(なごり)をとどめるにすぎない。今日ではシャツやブラウス、婦人服に装飾として用いられているが、一般に単純なものになっている。軍服などには相当後年まで姿をとどめていた。
[田中俊子]
カフスの種類は多く、その呼称もさまざまであるが、今日、用いられているもののうち代表的なものとしては次のようなものがあげられる。
(1)イミテーション・カフスimitation cuffs 袖先の部分に縫い目を入れて袖の一部をカフスに見せかけたもの。
(2)ウィングド・カフスwinged cuffs 折り返ったカフスが外袖側で分かれ、先広がりの形でその両先端はそり上がってとがり、翼のような形になっている。ブラウスなどに使われる。
(3)シャツ・カフスshirt cuffs ワイシャツのカフスで、折り返しのあるダブルと、折り返しのないシングルがある。
(4)ターナップ・カフスturn-up cuffs 袖先を肘のほうへ折り返したもので、ターン・バック・カフスturn back cuffsともいう。
(5)バンド・カフスband cuffs まっすぐな布でできた幅の狭いもの。袖先にギャザーを寄せた袖に使うことが多い。カフ・バンドともいう。
(6)ドロップド・カフスdropped cuffs 袖先に垂れ下がったものの総称。フリル、フレア、ギャザーで華やか。
(7)ファー・カフスfur cuffs 毛皮のカフス。襟とそろえてオーバーなどに用いられる。
[田中俊子]
cuffs-button和製語。英語ではcuff-buttons、cuff-links、sleeve-linksなどといい、夫妻(めおと)ボタンともいう。ワイシャツなどのカフスの両側の穴に差し込んで開口部を閉じるための留め具。2個または1個のボタンを鎖や金具で連結したものが多く、外袖側には装飾に貴金属や宝石類を用いる。タイピンとセットになったものも多い。礼装に多く用いる。
17世紀の上着に登場するが、のちに打ち紐(ひも)が用いられ、cuff-stringsとよばれ、19世紀中期には鎖がつなぎに用いられcuff-linksといわれた。今日の形になったのは男子のスーツ形式が完成した19世紀末である。
[田中俊子]
衣服の袖口,ズボンの折返し,手袋の腕回りをさすが,一般に袖口をいう。手首の部分の着脱を容易にするとともに保温,装飾の目的をもつ。西欧で13~14世紀ごろから着られていたコットの袖を,15世紀になって折り返したことに始まる。17世紀に男子服の袖口が,大きく幅広く折り返され,ボタンで留められ,男女の胴着にも装飾としてレース,麻の華やかなカフスがつけられた。レースなどをひだ飾りしたカフスは,ラッフル・カフスとよばれ,バロック,ロココ調服飾の特徴の一つとなった。17世紀には,首にひだ襟(ラフ),手首にカフスが上層階級のおしゃれに不可欠であった。ラッフル・カフスは,フランス革命以後男子服からは姿を消したが,19世紀には女子服の手首を飾った。現在のカフスは,男女ともにボタン,カフ・リンクスなどで留める実用的なものになっている。
執筆者:池田 孝江
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