特殊な気象条件のときに、水平に近い角度で発射された超短波やマイクロ波帯の電波が、ある高度範囲の大気中をあまり減衰することなく遠方まで伝わることがある。このように電波を導く性質をもつ大気の一部を、ラジオダクトまたは単にダクトという。
電波は真空中または性質が一様な媒質中では直進するが、地球大気のように高さとともに圧力、温度および湿度が変わる媒質中では大気の屈折率が一様でなくなり、電波の通路は一般に曲がる。この大気屈折率は一(真空中の値)にきわめて近いので、実際の取扱いには、一を超える分の100万倍を屈折指数と定義して用いる。さらに屈折指数に地球の湾曲を考慮した補正を加味して、修正屈折指数Mが定義され、広く用いられている。
標準的な大気では、Mは高さとともに一様に増加するが、特殊な気象条件のときに、ある高度範囲で減少することがある。このMの増加率が負になる部分を逆転層(ダクト層ともいう)という。逆転層が地表面に形成される場合を接地型ダクト、逆転層が地表から離れ、ダクトが接地している場合をS型ダクト、ダクトが地表から離れて形成される場合を離地型ダクトという。逆転層は標準大気と比べて、上層の大気が下層の大気よりも高温または低湿度になったときに生じ、その成因から分類するとダクトには次のようなものがある。すなわち、夜間の熱放射によって大地が冷え、地表付近に気温の逆転が生ずる夜間冷却によるダクト、海岸地帯において、昼間低温多湿の海風が高温低湿の陸上大気層下部へ流入して生ずるか、あるいは夜間高温低湿の陸風が低温多湿の海上大気層上部へ流入して生ずる移流性のダクト、海面上の多湿な大気の上に、貿易風などによる低湿な大気が重なって生ずる海洋性のダクト、さらに、高気圧圏において乾燥した上層の空気が沈降し、地表付近の湿った空気の上に重なって生ずる沈降性のダクトなどである。
ダクトは、主として地表付近から数百メートルまでの間に、種々の厚さをもって発生する。ラジオダクトが発生すると、電波はそれに閉じ込められる形で予想外の遠距離まで伝搬するから、一般的には、無線通信の混信や、フェージングによる受信品質の劣化など、好ましくない結果をもたらす。しかし、ダクトを積極的に利用して効率的に遠距離通信を行ったり、レーダーで可視距離外の物体を検知したりすることもできる。
[若井 登]
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