南西フランスの地方,ガスコーニュの一部。ジロンド河口からアドゥール川河口に至る230kmの大西洋岸を底辺とした三角形の砂地の平野で,ランド県とジロンド県,ロット・エ・ガロンヌ県の一部にまたがっている。海岸線沿いには並列して砂丘が発達し,幅約5km,ピラでは標高100mを超える。内陸は厚さ数十mの砂の層で覆われ,この砂は地表から1m足らずで,アリヨスと呼ばれる不浸透性の砂岩の層を形成している。他方,アルカションArcachonの潟に流れるレイル(またはエイル)川を除き,海への排水路はなく,砂丘の内側に降水がたまり,一連の湖沼をつくり,また冬の降水期には広く浸水する。〈ランド(荒れ地の意)〉の名のごとく,本来この湿地にはヒースやハリエニシダなどの低木のほか,わずかな松が生えているにすぎなかった。19世紀初めまでは,比較的排水のよい丘の上や谷の斜面に農場を設けた農民が,この荒れ地で羊の放牧を行っていた。羊の毛皮をまとい,1mもの高さの高下駄をはいた牧夫の独特の風俗は有名である。
18世紀後半から松の植林による砂丘の固定化が始められ,19世紀中ごろには本格化した。第二帝政期には,ナポレオン3世自身の発意により,内陸の大規模な土地改良工事が行われ,排水路網が完成し,コルクガシやとくに松が植林され,荒れ地は様相を一変した。1914年には森林面積100万haに達し,成木に達した松は枕木や坑木として伐採されるほか,松やにの採取が盛んに行われた。しかし〈黄金の木〉とさえ呼ばれたこの松林の経営の繁栄も長続きせず,外国産の木材や樹脂との競争,中小地主の経営放任や労働力不足による荒廃に加え,37年から50年にかけては,火災により45万haもの林が壊滅的被害をこうむった。
今日,ランドの松林は,その大半が近代的な林業技術により復興された。松やにの採取はほとんど行われないが,代わってパルプ材,さらに建築用材としての利用が進み,依然フランスで最も広い森林として重要な資源である。この林業に伴い,製紙,製材などの工場が各地に点在している。また,林の中央部のグランド・ランドは自然公園に指定され,マルケーズの生態博物館,ラブエール~サブル間の狭軌鉄道,グランド・レエル川のカヌー競技などが人気を集めている。
観光産業の発達は,とりわけ海岸地域に著しい。カキの養殖で知られるアルカションは,19世紀以来,全ヨーロッパに知られた保養地であったが,今日では潟の周辺および海岸線全域に開発が及び,砂丘内側の湖沼を中心に,水浴場,ヨット基地,キャンプ場などの設備が設けられている。そして乱開発を避けるべくアキテーヌ海岸整備事業団(MIACA)が統一的な開発計画を作成して調整にあたり,自然環境の保全との調和に努めている。
執筆者:井上 尭裕
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