アメリカの詩人。メーン州のポートランドに生まれ,ボードン・カレッジ卒業後ヨーロッパに留学。その後,母校の近代語の教授,さらにハーバード大学に招かれてジョージ・ティクナーの後を継いで近代語の教授を務め,再びヨーロッパに留学した。その間にも早くより創作を始め,作者のヨーロッパ趣味を漂わせる散文《海の彼方に--巡礼は海を越えて》(1833-34),自伝的な散文《ハイペリオン》(1839),有名な〈人生のうたA Psalm of Life〉を含む詩集《夜の声》(1839),《バラードその他の詩集》(1842),フレンチ・インディアン戦争当時の実話をもとにした悲恋叙事詩《エバンジェリン》(1847),インディアン伝説に取材した《ハイアワサの歌》(1855),初期プリマス植民地を背景とする恋愛叙事詩《マイルズ・スタンディッシュの求婚》(1858)などの作品を次々と発表し,教授詩人として並々ならぬ名声を確立しながら,さらにダンテの《神曲》の翻訳(1865-67)も行った。しかし同時代のJ.R.ローエルが《ビッグロー・ペーパーズ》などで反奴隷制の論争を展開したのに比べれば,ロングフェローの立場は,ローエルに現実逃避と非難されたO.W.ホームズの立場に似ている。その世界は,感傷というベールの彼方に現実を透かし見るような,趣味的に構築された現実描写を特徴としている。ヨーロッパ的教養や趣味を広い読者層に浸透させた点は功績といえ,やさしみのある滑らかな短詩の巧妙さを再評価する動きもある。
日本では,1870年(明治3)中村正直が〈村の鍛冶屋The Village Blacksmith〉を〈打鉄匠歌〉(《英訳漢語》所収)と題して漢詩に翻訳。さらに《新体詩抄》(1882)に〈人生のうた〉などが外山正一と井上哲次郎によって訳出された。いずれの翻訳も功名立身の処世訓を強調している。この2編の詩は英語の教科書にもしばしば採用された。
執筆者:後藤 昭次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカの詩人。2月27日メーン州ポートランドに生まれる。ボードン大学を卒業。ヨーロッパ留学ののち母校で6年間近代語教授を務め、ふたたび留学中、同行の妻が病死。1836年からハーバード大学教授となり、18年間その職にあった。海外旅行記、自伝的散文物語を出版後、多くの詩を発表。処女詩集『夜の声』(1839)収録の「人生讃歌(さんか)」は、おおらかに人生を肯定し、広範な読者に迎えられた。代表作には、著名な「村の鍛冶(かじ)屋」を含む『民謡その他の詩集』(1842)、悲恋哀詩『エバンジェリン』(1847)、フィンランドの叙事詩『カレバラ』に倣ったインディアン英雄詩『ハイアワサの歌』(1855)、ピューリタンの恋物語詩『マイルズ・スタンディッシュの求婚』(1858)などがある。61年、二度目の妻を火傷で失い、一時創作の筆が鈍ったが、『神曲』の英訳(1865~67)を完成。82年3月24日ケンブリッジで没。概して韻律は平易で、教訓的、感傷的内容の詩が多い。19世紀末ごろまではもっとも人気あるアメリカの代表詩人で、日本でも明治・大正時代を通じてよく読まれた。
[池田孝一]
『松山敏訳『ロングフェロウ詩集』(1953・人生社)』▽『大和資雄訳『夜の声』(『世界名詩集大成第11巻 アメリカ篇』所収・1962・平凡社)』▽『E・L・ハーシュ著、後藤昭次訳『ヘンリー・ワズワース・ロングフェロウ』(『アメリカ文学作家シリーズ 第七巻』所収・1968・北星堂書店)』
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1807~82
アメリカの詩人。マサチューセッツ州出身。ハーヴァード大学教授として文学を講じたが,晩年は詩作に専念した。代表作は『奴隷制に関する詩』『エヴァンジェリン』など。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
… 当時,上記のような先鋭な作家と違って,常識的な立場から作品を書き,多くの読者をかちえていた作家群もいた。《エバンジェリン》(1847)などの物語詩で有名なロングフェローや,O.W.ホームズ,J.R.ローエルらである。またこの時代,社会から孤立しながら独特の文学世界をつくっていた者もいる。…
※「ロングフェロー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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