翻訳|Kalevala
フィンランドの民族叙事詩。医師E.リョンロートはフィンランドの東側にある辺境の地カレリアの山野を尋ね歩いて口承の叙事詩を収録し,まとめて1835年に発表したが,これを《古カレワラ》という。その絶大な反響にこたえ,さらに調査を重ねて増補改定を行い,49年に《カレワラ》の決定版を世に送った。これは50章2万2795行からなる雄大な長詩編で,何人もの農民詩人により歌い継がれてきた物語詩を編集したものである。すべての詩行が8音節の4脚強弱格で組み立てられていて,民衆芸術の極致といえる。
大気の乙女イルマタルが原始の海を漂っているとカモが飛んできて,そのひざに卵を産みつける。これが海中に転落して砕け,天地星辰が創造される。また,大気の乙女から生まれた英雄ワイナミョイネンは大呪術師に成長し,ヨウカハイネンを魔法の決闘で打ちこらしめる。次にワイナミョイネンはポホヨラの美女に求婚するが,提示された最後の課題に失敗する。そこで遊蕩児レンミンカイネンがポホヨラにおもむき乙女に求婚するが,〈トゥオネラの白鳥〉を射止める課題で暗殺されてしまう。やがて宇宙鍛冶イルマリネンは富を産み出す秘器サンポを製作してポホヨラの美女を獲得する。しかし彼女は下僕のクッレルボに殺害される。やがてカレワラとポホヨラの両部族の間の情勢が険悪となり,カレワラの勇士ワイナミョイネンは同志と共にポホヨラへ乗りこみ,秘器サンポを奪って海路脱出するが,ポホヨラの女主人は兵士を引き連れて追跡する。そして大乱闘の末,サンポは破壊されて水中に没する。最後に優美な末娘マリヤッタが男の子を産み,この子がカレワラの王となるに及んで異教の使徒ワイナミョイネンは海のかなたへ消え去って行った。
《カレワラ》は古代フィン人の素朴な宇宙観が結晶したもので,そこに夢幻自在な呪的世界が描き出されている。英雄の冒険物語があり,伝承の悲話があり,宗教的奇跡譚がある。また獲物を願って森の主に祈る呪文,火を圧伏する呪文など各種の呪文が唱えられ,熊を殺したとき歌う熊祭での熊の賛歌や婚礼の前に花嫁が歌う哀泣歌も含まれていて,《カレワラ》はまさに神話学・民俗学の宝庫である。《カレワラ》の発見はフィンランド人に民族的自信を与え,A.キビの劇作,ガレン・カレラの絵やJ.シベリウスの音楽など,文化面に無辺の影響を与えた。なお《古カレワラ》が出版された2月28日を記念し,これを〈カレワラの日〉として多彩な行事が催されている。《新カレワラ》はA.シーフネルのドイツ語訳(1852)を皮切りに23ヵ国語に翻訳されている。この純朴な文体と内容は全世界に新鮮な衝撃を与え,マックス・ミュラーは《カレワラ》を《イーリアス》に比肩するものと絶賛し,H.W.ロングフェローは《カレワラ》に刺激されて名作《ハイアウォサ》を書き上げた。森本覚丹訳(1937)をはじめ,いくつかの邦訳がある。
執筆者:小泉 保
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…次にペトラエウスEskil Petraeusを中心とする委員会による《決定訳聖書》(1638)は信仰面だけでなく語法の定立に大きく作用している。19世紀前半,民族主義が高揚する中で,医師リョンロートが東カレリア地方で伝承されている詩歌を採録してまとめた叙事詩《カレワラ》(1835。増補改定版1849)の発表は,フィンランド人の祖国愛を刺激し,民俗学や神話学に尽きない研究素材を与え,美術や音楽に華麗な主題を供した。…
…語順は自由で,たとえばpoika lukee kirjaa.〈少年が・読んでいる・本を〉では各語を入れ替えることができる。最古の文献はM.アグリコラの《ABC読本》(1543)と〈新約聖書〉訳(1548)で,19世紀にE.リョンロートにより口承の民族詩《カレワラ》(1848)が発表されて以来文化的語彙が整備され,文学が開花した。【小泉 保】。…
※「カレワラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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