日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヴァーレ・インコ」の意味・わかりやすい解説
ヴァーレ・インコ
ぶぁーれいんこ
Vale Inco Ltd.
1916年にカナダで設立された非鉄金属の採掘・精錬企業。ニッケル生産の会社としては世界最大級。本社はカナダのオンタリオ州トロント。全世界のニッケル生産の4分の1を占め、1960年代初めまではその比率は70%近くにまで達していた。ほかに銅、コバルト、合金の生産でもその生産量は大きな比率を占めている。また、これらの金属製品生産の副産物である硫黄(いおう)生産も行われている。ニッケルは初め西南太平洋、フランス領のニュー・カレドニア産鉱石から製造されていたが、20世紀になってカナダ産鉱石の比重が高まり、一時は全世界の約90%を占めるに至った。
1902年、カナダでニッケル生産を行っていたカナダ、イギリス、アメリカの資本が、アメリカのモルガン財閥の斡旋(あっせん)のもとに合併してインターナショナル・ニッケルを設立。1916年には同社のカナダ法人のインターナショナル・ニッケル・カンパニー・オブ・カナダInternational Nickel Co. of Canadaが設立され、1928年12月にはインターナショナル・ニッケル・カンパニー(アメリカ、ニュー・ジャージー州法による株式会社)の所有していた株式を取得して、このカナダ法人が事実上の親会社となった。1976年にインコInco Ltd.に改称。
2006年ブラジルのCVRD社(Companhia Vale do Rio Doce、通称リオ・ドセRio Doce。現ヴァーレVale)が194億USドルの買収提案を行った。2007年インコの株主によって提案が承認され、1月にCVRD社の完全子会社になり、11月親会社の社名変更に伴い名称も現社名に変更した。
業務は世界22か国で行われており、主要業務はニッケル、銅、コバルト、貴金属生産である。これらの業務の中心となる地域としては、カナダ国内ではオンタリオ州のサドベリー地区、マニトバ州のトンプソン地区、国外ではインドネシアのスラウェシ島がある。インドネシアでの業務は子会社のP・T・インターナショナル・ニッケル・インドネシアを通じて行われている。これら3地域での業務のほかにはオンタリオ州のポートコルホーン、イギリスのウェールズおよびイングランドに精錬工場が設けられている。さらに日本、台湾、韓国でもニッケル精錬企業への資本参加を行っている。売上高は大きく伸びており、1996年24億6000万USドルであったのが、2007年には80億USドル以上になっている。非鉄金属に対する需要は、今後新興国での伸びが予測されている。その一方で、自然環境に配慮し、倫理性をもって社会的責任を果たし持続的成長を目ざしている。従業員数は1万2000人(2008)。
[芦澤成光]