化学辞典 第2版 「三リン酸」の解説
三リン酸(塩)
サンリンサン
triphosphoric acid(triphosphate)
一般には,catena-三リン酸,つまり3個の四面体型のPO4が,頂点のO原子を共有して鎖状につながった形の,図(a)に示すイオンをもつH5P3O10とその塩をいう.同様に3個のPO4が環状につながった形の,図(b)に示すイオンをもつH3P3O9とその塩は,cyclo-三リン酸という.そのほか,P-P-Pの鎖をもつもの(図(c)),P-O-P-Pの鎖をもつもの(図(d))なども知られている.【Ⅰ】catena-三リン酸(catena-triphosphoric acid):H5P3O10(257.96).トリポリリン酸(tripolyphosphoric acid)ともいう.オルトリン酸の加熱脱水,または五酸化リンP2O5と水との加水分解反応で,ほかの縮合リン酸とともに生成するから,これをイオン交換クロマトグラフィーで分離精製する.Na塩は,リン酸二水素ナトリウムNaH2PO4とリン酸一水素ナトリウムNa2HPO4を混合し,加熱すると得られる.図(a)で示す陰イオンをもち,P-O1.45~1.52 Å(末端),1.62~1.66 Å(橋かけ).加水分解すると,オルトリン酸となる.誘導体のアデノシン5′-三リン酸(ATP)は生体のエネルギー源となる重要な物質である.Na塩(sodium tripolyphosphate,STPP)Na5P3O10は白色の粉末で,水の軟化剤,食品添加剤,洗浄剤などに利用される.K塩は金属イオン封鎖剤に用いられる.[CAS 10380-08-2]【Ⅱ】cyclo-三リン酸(cyclo-triphosphoric acid):H3P3O9(239.94).三メタリン酸(trimetaphosphoric acid)ともいう.NaH2PO4を約500 ℃ に加熱すると,Na3P3O9が生成する.これを単離し水に溶かし,H型陽イオン交換樹脂カラムを通すと酸の水溶液が得られる.酸も塩も加水分解すると鎖状の三リン酸(塩)になる.酸は強い酸である.cyclo-三リン酸塩には Ca2+ などへの封鎖作用はない.[CAS 13566-25-1]【Ⅲ】Na3P3O8・14H2Oは無色の結晶で,赤リンと次亜塩素酸ナトリウムNaClOの反応生成物に含まれる.図(c)のような形のイオンをもつ.P-O1.53 Å,P-P2.22 Å.H5P3O9は,次リン酸とPOCl3との反応で得られる遊離酸で,図(d)のような形のイオンをもつと考えられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報