改訂新版 世界大百科事典 「三人の奪われた王女」の意味・わかりやすい解説
三人の奪われた王女 (さんにんのうばわれたおうじょ)
伝説・昔話の話型の一つ。この話は黒海沿岸の小アジアに特に濃く分布しているため,その地方に起源があるのではないかと考えられている。しかしその分布はひろく,北欧,アイルランドにもかなり多くの類話がみられ,ほとんど全ヨーロッパにあるといえる。したがって変化も多いが,カフカスの類話を例にとって説明すると,王がたいせつにしている庭のリンゴが盗まれるので,3人の王子が順に見張りにいき,三男のみが盗人である魔神に矢を命中させる。3兄弟で血のあとをたどり,岩穴に降りていくことになるが,兄2人は勇気なく,末弟が降りていく。下には3人の王女が閉じこめられているので,救出し,兄たちに引き上げてもらうが,三男のみは兄の策略で下に取り残される。三男は下界で水をせき止めている魔神を退治し,ほうびとして怪鳥に乗せられて地上へもどる。父の王国にたどりつくと,兄2人が,三男の救出した娘と結婚するところなので,兄を射殺して,その娘の一人と結婚する。この話は,《グリム童話》では91番〈地もぐり一寸法師〉となっており,デンマークでは〈強いハンス〉として伝えられている。日本では,諏訪神社の由来として,〈甲賀三郎〉の話が伝えられている。三男のみが地下へ降りる勇気があり,地下に捕らえられている娘を救出して婚約することなど,強い類似を示している。反面,二重婚があること,地上へもどった三郎が蛇の姿になっていることなど,異なる点もあるが,この話の広い分布の一環であることはたしかである。
執筆者:小澤 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報