日本大百科全書(ニッポニカ) 「三徳抄」の意味・わかりやすい解説
三徳抄
さんとくしょう
江戸前期の儒者林羅山(らざん)(1583―1657)の和文の書の代表作で、「三徳抄」と「理気弁」を上巻に、「大学」を下巻に収め、最初の論考の題名をとって全巻を『三徳抄』と称する。まず「三徳抄」では、朱子(しゅし)(朱熹(しゅき))の『中庸(ちゅうよう)章句』に智(ち)仁勇の三徳を入道の門とする説に従って三徳を概説し、次に『中庸』の五達道と関係づけながら三徳が相互に他を含み合うことを説明する。次に「理気弁」では、理気、性情の関係を、「大学」では、『大学』の要領を朱子学に基づいて解説する。羅山のいま一つの和文の書『春鑑抄(しゅんかんしょう)』が『論語』『孟子(もうし)』に関する羅山の朱子理解を要約するのとあわせて、羅山の四書概論、朱子学入門書となっている。『春鑑抄』と同じく寛永(かんえい)(1624~43)以後の作と思われる。
[石田一良]
『石田一良・金谷治校注『日本思想大系28 藤原惺窩・林羅山』(1975・岩波書店)』