中庸(読み)チュウヨウ

デジタル大辞泉 「中庸」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐よう【中庸】

[名・形動]
かたよることなく、常に変わらないこと。過不足がなく調和がとれていること。また、そのさま。「中庸を得た意見」「中庸な(の)精神」
アリストテレス倫理学で、徳の中心になる概念。過大と過小の両極端悪徳とし、徳は正しい中間(中庸)を発見してこれを選ぶことにあるとした。
[類語]中間あいだあわい中程なかほどちゅうくらい中道中形中間的中性中立ミディアム中正不偏不党ニュートラル

ちゅうよう【中庸】[書名]

中国戦国時代思想書。1巻。子思の著と伝えられる。「礼記らいき」中の一編であったが、朱熹しゅきが「中庸章句」を作ったことから、四書の一として儒教根本書となった。天人合一真理を説き、中庸の誠の域に達する修養法を述べる。

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精選版 日本国語大辞典 「中庸」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐よう【中庸】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. ( 形動 ) どちらにも片寄らないで常に変わらないこと。過不足がなく調和がとれていること。また、そのさま。中正。中道。
      1. [初出の実例]「内典も中道実相ぞ。外典にも中庸を本にするぞ」(出典:日本書紀兼倶抄(1481))
      2. 「人間万事中庸(チウヨウ)の、ほどよくするはかたくもあるかな」(出典:人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後)
      3. [その他の文献]〔礼記‐中庸〕
    2. ( 形動 ) ふつうであること。尋常であること。また、そのさまや人。凡庸。常人。〔色葉字類抄(1177‐81)〕 〔荀子‐王制〕
    3. アリストテレスの徳論の中心概念。理性によって欲望と行動を統制し、過大と過小との両極端の正しい中間に身をおくこと。たとえば、勇気は、理性によって明らかにされた具体的な事情を考えた上で、卑怯と粗暴との中間であるとすること。
  2. [ 2 ] 中国の経書。四書の一つ。一巻。子思撰と伝える。「礼記」から中庸篇を独立させたもの。天人合一の真理、中庸を説く前半とその具体的な運用である誠を説く後半に分けられ、先行の儒学説を総合整理して体系化し形而上学的根拠を明白にしている。後世、朱子の編纂した「中庸章句」が多く世に行なわれた。

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改訂新版 世界大百科事典 「中庸」の意味・わかりやすい解説

中庸 (ちゅうよう)
Zhōng yōng

儒教の経典。朱子学の〈四書〉の一つ。もともと《礼記(らいき)》のうちの一編で全文3500余字。古来,孔子の孫の子思の作とされる。本来の《中庸》は前半部のみで,後半部は《誠明書》という別の書だという説や,秦代の子思学派の《中庸説》という解説書だとする武内義雄の説,などがある。武内説は伊藤仁斎の説を発展させたものである。朱熹(子)は《中庸》を儒教哲学の最高峰とたたえてとくに《礼記》からぬき出して〈四書〉の一つに列し,全体を33章に分かち,自己の哲学によって注釈を書いた(《中庸章句》)。内容は,冒頭にまず性・道・教の3概念を提出し,道の絶対性を主張し,慎独,未発の中と已発の和,究極としての〈天地位し万物育す〉る境地を説き,ついで形而上的〈〉の実践道徳として〈中庸〉の徳・鬼神・誠(天道,人道)を説き,最後に道の形而上性を強調して終わる。雑然としているようであるが,一貫して道(中)の形而上性と中庸の徳の相即性を論じたものだというのが朱子学の見方である。
執筆者:


中庸 (ちゅうよう)
zhōng yōng

儒教の徳目。〈中〉は偏らず,過ぎたると及ばざるとのないこと,〈庸〉は平常,つまりあたりまえでコンスタントであること。儒教では忌憚のない直情径行を夷狄(いてき)の風としていやしみ,俗をおどろかすような(社会において突出するような)行為をきらって,庸徳庸行を尊ぶ。孔子は〈中庸はそれ至れるかな,民の能くすること鮮(すくな)きこと久し〉と嘆いた。それは形而上的な〈〉に基礎づけられた徳であり,その獲得と実践には深い省察が要求される。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中庸」の意味・わかりやすい解説

中庸
ちゅうよう

もと『礼記(らいき)』の第31篇(ペん)。儒教の教理を述べた書。孔子の孫、子思(しし)の作ともいうが、後世の付加も多く、全篇の成立は秦(しん)代か漢代ごろとされる。古くから独立した一書としても重んじたが、朱熹(しゅき)(朱子)は、孔子門下に伝授された心法を子思が記録して孟子(もうし)に伝えた書とし、道統の継承の線上に位置づけ、四書の一つとして重んじ、旧来の分段を改めて33章に分け、自らの哲学に基づいて『中庸章句』を書いた。それによれば、中庸とは不偏不倚(ふき)、過不及のない平常の道理で、道理は天に基づいて人間に本性として賦与される。本性に従って存養省察して喜怒哀楽の中和を得れば、天地は順応し万物は生育し、人間と自然の統一調和が保たれる。この根本理念がさらに詳細に説明されるとみるのである。本性や存養のとらえ方には、後世には異論もみられたが、『中庸』が儒教教理の書として重んじられたことに変わりはない。

[佐野公治]

『宇野哲人訳注『中庸』(講談社学術文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中庸」の意味・わかりやすい解説

中庸
ちゅうよう
mesotēs; mean

倫理学上の主要概念の一つ。ギリシア哲学において対立項の中点に立つ調和的存在を初めて考えたのはピタゴラスとされているが,これを倫理学的領域に導入したのはプラトンである。しかしプラトンにおいてはまだ数学的ないし医学的色彩の強いものであった。アリストテレスは中庸の概念を過超と不足に対する均整とし,さらに算術的比例中項に代表されるような事柄それ自身における中庸と「われわれ (識者) にとっての」中庸とに区別して後者を倫理的徳の本質的な属性とした。したがって中庸を本性とし最善とする徳 (たとえば真実) に対しては過超 (たとえば真実に対する虚飾) も不足 (同様に卑下) も悪徳 (カキア) とされる。

中庸
ちゅうよう
Zhong-yong

中国,儒教の経書「四書」の一つ。もと『礼記 (らいき) 』中の1編で,戦国時代初期 (前5世紀) の子思の作と伝えられていたが,宋の朱子が推尊してから大いに行われるようになった。実際は前3世紀末の無名の学者の作と思われる。世界の調和を達成するには常に中正な道があるべきであるとし,人間の諸行為の根本を探究して,それを人間本性の「誠」の充実であるとし,その修養を説いた。「誠」の経書であり,儒教の諸文献のうちでは最も思弁的である。

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百科事典マイペディア 「中庸」の意味・わかりやすい解説

中庸【ちゅうよう】

儒教の経典。子思の作という。もと《礼記》の第31編であったのを,宋代にはこれを独立させて研究する者が多く出て,朱熹(朱子)によって〈四書〉の一つとされた。朱熹は全文を33章に整理して,《中庸章句》《中庸或問(わくもん)》を著した。誠の道によって天人合一を説く。

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普及版 字通 「中庸」の読み・字形・画数・意味

【中庸】ちゆうよう

中正、過不及がない。〔論語、雍也〕子曰く、中庸の爲(た)るや、其れ至れる乎(かな)。民(能くするもの)鮮(すく)なきこと久し。

字通「中」の項目を見る

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旺文社世界史事典 三訂版 「中庸」の解説

中庸
ちゅうよう

中国古代の儒学の経書
孔子の孫の子思 (しし) の作と伝えられる。『礼記 (らいき) 』の中の1編で,いわゆる中庸の道を説いているが,朱熹 (しゆき) が重視し,『大学』『論語』『孟子』とともに四書の1つとした。

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世界大百科事典(旧版)内の中庸の言及

【四書】より

…中国の《論語》《孟子》《大学》《中庸》の総称。〈学庸論孟〉ともいい,儒教思想の真髄を得たものとして宋の朱子学以来尊重されてきた。…

※「中庸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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