下垂体前葉から分泌される単純タンパク質のホルモンで、脊椎(せきつい)動物全般にわたって存在するといわれている。GH(growth hormoneの略)、STH(somatotropic hormoneの略)とも表記し、化学物質名はソマトトロピンsomatotropinという。ヒトの成長ホルモンは、191個のアミノ酸残基からなり分子量が2万または2万2000の2種があり、その構造も明らかになっている。ウシ、ブタ、ヒツジなど多数の動物で、アミノ酸配列がわかっている。
成長ホルモンは、種々の物質の代謝系を調節して、動物の成長に関係している。しかし、甲状腺(せん)ホルモン、インスリン、副腎(ふくじん)皮質ホルモン、性ホルモンなどのホルモンも物質代謝に関係している。成長ホルモンは、これらのホルモンと協調的あるいは拮抗(きっこう)的に作用し代謝調節を行う。したがって、成長ホルモンのみが成長促進の要因ではなく、他のホルモンとの調和のとれた分泌が、正常な成長に必要である。たとえば成長ホルモンは、組織におけるアミノ酸の分解を抑え、タンパク質の生合成を促進する。また脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出を促進するとともに、組織へのその取り込みを増加させる。さらに、成長ホルモンは糖代謝にも関係し、肝臓からのブドウ糖の放出を促進し、筋肉や脂肪組織の血中からのブドウ糖の取り込みを減少させる。その結果、血糖値が上昇する。また、成長期の動物の長骨の両端にある骨端軟骨板に作用し、その増殖を促し、長骨の成長を促進している。このように、成長ホルモンは動物の成長に関与するが、反応する組織や発生段階により、その作用は変化する。とくにヒトでは、成長ホルモンの分泌亢進(こうしん)が小児期におこると巨人症に、長骨の骨端軟骨の増殖停止後におこると先端巨大症となる。その逆に、成長期のホルモン分泌不全により低身長症がおこる。成長ホルモンの分泌は、視床下部の成長ホルモン抑制因子であるソマトスタチンにより放出が抑制され、成長ホルモン放出因子により促進される。
成長ホルモン量は、抗原抗体反応を利用したラジオイムノアッセイにより測定する。生物学的測定法としては、下垂体を摘出した幼若ネズミに検体を注射し、脛骨(けいこつ)の骨端軟骨の成長を測定する方法や、ニワトリ胚(はい)の軟骨への硫酸塩の取り込みを測定する方法がある。魚類は、ウシ、ブタ、サル、ヒトの成長ホルモンには反応する。ラットは魚類の成長ホルモンには反応しないが、他の哺乳(ほにゅう)類の成長ホルモンに反応する。ヒトは、霊長類を含めて他の動物の成長ホルモンに反応しない。このため低身長症の治療には、かならずヒトの成長ホルモンを利用しなければならない。また、成長ホルモンは、肝臓、腎臓(じんぞう)や筋などで合成されるインスリン様成長因子Ⅰの合成・分泌を促進する。このインスリン様成長因子が、細胞増殖やタンパク質合成などの成長ホルモン作用を仲介していることがわかってきた。
[高橋純夫]
『鎮目和夫編著『成長ホルモンとその関連ペプチド』(1992・朝倉書店)』▽『日本比較内分泌学会編『成長ホルモン・プロラクチンファミリー』(1996・学会出版センター)』
GHと略記し,ソマトトロピンsomatotropin(STHと略記)ともいう。脊椎動物の脳下垂体前葉の好酸性細胞から分泌されるホルモンの一つ。分泌は視床下部の支配を受け,抑制因子ソマトスタチンsomatostatin(GIF,GIHまたはSRIFと略記)と促進因子(GRFまたはGRHと略記)によって調節される。このホルモンは硬骨魚類から哺乳類に至るまで1本鎖の単純タンパク質で,S-S結合をもつ。アミノ酸残基の総数は約190で,ヒト,ヒツジ,ウマ,ウシでは一次構造がわかっている。哺乳類以外では,ティラピア,ウシガエル,カメ,アヒルでアミノ酸の種類と数がわかっているが,各種類でアミノ酸の数が異なる。したがって作用についても強弱がある。成長ホルモンはプロラクチンと一次構造が類似している。例えばオタマジャクシにウシのプロラクチンを注射すると変態が抑えられ成長のみが起こる。したがってオタマジャクシでは,プロラクチンが成長ホルモンの働きもしていることになる。このことから,両ホルモンは系統発生学上一つの共通の祖先型分子から進化してきたと考えられる。硬骨魚類では両ホルモンがすでに存在するから,無顎類で共通の祖先型分子があるかどうか今後の解明がまたれる。
執筆者:小林 英司 成長ホルモンは,生理作用の発現において,最も動物種特異性の高いタンパク質ホルモンである。ヒトに対しては,ヒト,サルの脳下垂体から得られたものしか有効でない(ちなみに,ウシからのものは霊長類には無効であるが,他のすべての哺乳類には有効である)。しかもサルの脳下垂体はヒトの1/10程度の大きさなので,ヒトに有効な成長ホルモンを得るためにヒトの脳下垂体を原料にせざるを得なかった。しかし,ヒトの成長ホルモンのアミノ酸配列は1971年に決定され,現在では,遺伝子組換えによる合成が実用化されている。成長ホルモンはあらゆる代謝に影響を与えるが,とくにタンパク質合成,骨形成促進作用が著しい。そのため,このホルモンが分泌過剰であれば,巨人症あるいは末端肥大症となり,分泌低下では脳下垂体性小人症がみられる。したがって,成長ホルモンの臨床的応用として,脳下垂体性小人症をはじめとする種々の発育不全症,未熟児,手術後の回復,消耗性疾患の回復,骨多孔症,骨折治癒促進などの治療にひじょうに有用なものである。
執筆者:川田 純
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略称GHまたはSTH.ソマトトロピン(somatotropic hormone,somatotropin)ともいう.下垂体前葉ホルモンの一つ.動物の成長を支配するホルモンで,各種動物の下垂体に存在しており,抽出,精製されている.分子量は動物種により異なるが,2.5×104~5×104 のポリペプチドである.成長促進作用,タンパク質同化促進作用などがみられる.[CAS 9002-72-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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[前葉と前葉ホルモン]
腺下垂体の前葉からは数多くのホルモンが分泌されるが,現在までに完全にわかっているものは6種類である。すなわち,成長ホルモン,プロラクチン,副腎皮質刺激ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,卵胞刺激ホルモン,黄体形成ホルモンである。このほか最近の説ではリポトロピン,エンドルフィン,エンケファリンも分泌されるという。…
…これらのホルモンには,黄体形成ホルモン放出ホルモン(略号LHRH。濾胞(卵胞)刺激ホルモン放出ホルモンと同一のものと考えられている),甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH),副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH),プロラクチンの放出ホルモン(PRH)と抑制ホルモン(PIH),成長ホルモンの放出ホルモン(GRH)と抑制ホルモン(GIH。抑制ホルモンはソマトスタチンともいわれる),黒色素胞刺激ホルモンの放出ホルモン(MRH)と抑制ホルモン(MIH)などがある。…
※「成長ホルモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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