日本大百科全書(ニッポニカ) 「副腎皮質刺激ホルモン」の意味・わかりやすい解説
副腎皮質刺激ホルモン
ふくじんひしつしげきほるもん
adrenocorticotropic hormone
下垂体前葉から分泌され、副腎皮質に働いて副腎皮質ホルモンの生合成と分泌を促すホルモンをいい、略してACTHとよぶ。生体に不安緊張、外傷や手術による痛みなどの肉体的・精神的ストレスがかかると、ACTHが分泌され、その結果として副腎皮質ホルモンの分泌が促されて、それらのストレスから身を守るように働く。ACTHは、下垂体前葉に存在するACTH産生細胞で合成され、分泌される。39個のアミノ酸が直線的につながったポリペプチドで、分子量は約4500である。ACTHの副腎皮質刺激作用は、ACTH分子のN端から1~18位のアミノ酸の部分に存在する。19~39位までのアミノ酸は、ACTHの不活性化を防ぐ働きと、ACTHの抗原としての働きがある。また、ACTHには黒色素胞刺激作用があるが、これはACTHのN端側の1~13位にα‐MSH(黒色素胞刺激ホルモン)を含むためである。
下垂体からのACTHの分泌は、視床下部の正中隆起に存在するACTH放出ホルモン(コルチコトロピン放出ホルモン、略してCRH)によって調節されている。下垂体から血液中へ放出されたACTHは、ヒトの場合約9分でその生物活性が半分に減少する。ACTHは副腎皮質の細胞を刺激して糖質コルチコイドを分泌させる。血中の糖質コルチコイド濃度が高くなると、ACTHの分泌を抑制するように働く。逆に血中の糖質コルチコイド濃度が低くなると、ACTH分泌を刺激するように働く。このような調節の仕組みをネガティブ・フィードバック機構とよぶ。ACTH分泌には、ストレスに対するときのほか、日内でのリズムがあり、ヒトでは朝の起床直後に血中濃度が最高となり、夕方から就寝時にかけて最低となる。深夜労働者とか夜行性の動物では、逆に夕方目覚めるころに血中ACTH濃度が最高になり、朝の就寝時に最低となる。この日内リズムは、視床下部からのACTH放出因子の日内リズムによるもので、末梢(まっしょう)血中の糖質コルチコイドの濃度の変化には無関係である。
[小林靖夫]