日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
中央北極海無規制公海漁業防止協定
ちゅうおうほっきょくかいむきせいこうかいぎょぎょうぼうしきょうてい
中央北極海の海洋生態系を保護し、魚類資源の保存、持続可能な利用の確保を目ざす協定。正式名称は「中央北極海における規制されていない公海漁業を防止するための協定(Agreement to Prevent Unregulated High Seas Fisheries in the Central Arctic Ocean)」であり、2018年10月3日にデンマーク領グリーンランドのイルリサットにおいて採択・署名され、2021年6月25日に発効した。その背景として、地球温暖化の影響が北極海に及んでおり、海氷の融解により海面が現れる区域および期間が増えていることがある。北極海の沿岸域にはタラや力レイの漁場があり、海氷の減少による漁場の拡大が期待されている。
北極海沿岸5か国(アメリカ、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマーク)の排他的経済水域に囲まれている中央部の公海(北極公海)でも海氷の減少は生じている。同公海の魚種や資源量は不明であるが、海氷下にタラ類などの生息が推定されている。北極公海では商業的な漁獲は始められていないが、適用しうる国際制度が存在しないため、IUU(違法・無報告・無規制)漁獲による生態系への悪影響が懸念されていた。それを受けて、2015年(平成27)7月に沿岸5か国は、中央北極海無規制公海漁業防止宣言を採択した。2015年12月からは、日本、中国、韓国、アイスランド、ヨーロッパ連合(EU)を加えた9か国・1機関により法的枠組みの検討・交渉が始められ、この協定の採択に至った。このような商業漁獲開始前の予防的規制措置は、南極アザラシ保存条約や南極海洋生物資源保存条約にも定められていた。
その対象である北極公海は地中海(250万平方キロメートル)より広く約280万平方キロメートルに及び、地域漁業管理機関等が定める資源管理措置に基づく商業漁獲のみ許可される。そのような地域機関や管理措置は存在しないため、漁獲のためにはそれらの新設が必要となる。締約国には、地域機関の設立交渉の開始を検討すること、また、2年以内に科学調査と監視に関する共同計画を策定することが義務づけられている。
この協定は、上記9か国・1機関すべてが締結して30日後の2021年6月25日に発効し、16年間有効である。日本国内でも、2019年(令和1)7月23日の受諾書の寄託を経て、7月26日に公布され、2021年6月25日に発効した。
[磯崎博司 2021年10月20日]