日本大百科全書(ニッポニカ) 「公海漁業」の意味・わかりやすい解説
公海漁業
こうかいぎょぎょう
high sea fisheries
公海において営む漁業をいう。近世から1970年代なかばまで、領海外の海域は、いかなる国の主権にも属さない公海であって、そこでは、だれでも自由に漁業を営むことができる海洋利用秩序が基本的に支配していた。この秩序のもとで先進諸国は、公海における優良漁場を開発し、漁獲技術を発展させて、漁業生産力を大幅に上昇させてきたが、他面では水産資源をめぐる国際紛争と乱獲を引き起こし、その調整と資源保存の立場から、関係国間で、一定海域の特定魚種の漁獲を規制する漁業条約が締結されてきた。この規制が広まるのは第二次世界大戦後のことであって、その基本原則は、1958年の国連海洋法国際会議で成立した「漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約」で与えられた。その後、資源ナショナリズムの高揚と相まって、公海漁業に対する規制が強化される経過をたどってきたが、1970年代後半に200海里経済水域が世界的に設定されるに至り、公海の海域で開発されてきた優良国際漁場は、各国の経済水域内に、ほぼ囲い込まれることになった。これにより公海漁業は実質的に終焉(しゅうえん)を迎えるに至ったのである。加えて、公海であっても、サケ・マスのような遡河(さくか)性魚種に関しては、産卵河川を有する国に管理・管轄権があるとする母川国主義によって、母川国はサケ・マス公海漁業への規制を強化してきており、この種の公海漁業の存続を困難にしている。
[高山隆三]
『小田滋著『海洋法研究』(1975・有斐閣)』