改訂新版 世界大百科事典 「中性カレント」の意味・わかりやすい解説
中性カレント (ちゅうせいカレント)
neutral-current
弱い相互作用に関連するゲージ粒子にはW⁺およびW⁻(±は電荷を表す)という電荷±1をもつ粒子と,Z0という電気的に中性の粒子がある。W±粒子は電荷を±1だけ有するため,例えばW⁻はW⁻→e+νまたはW⁻→p+nのように終状態が電荷-1の状態にこわれる(e,ν,p,nはそれぞれ電子,中性微子,陽子,中性子であり,⁻はそれぞれの反粒子を表す)。これは粒子を組み替えてみればn→p+e+νとなり,W⁻は通常のβ崩壊に関連する。すなわち,β崩壊はn→p+W⁻,W⁻→e+νというようにW⁻を媒介として引き起こされる。このようにWが関与する過程はすべて電荷が交換される過程であり,別の言い方ではWは電荷をもったカレントに結合するという。一方,Z0はZ0→e⁺+eまたはν+νのように終状態が中性のものに崩壊し,ν+p→ν+pというような電荷が変化しない過程を引き起こす。このような過程を中性カレントの過程という。中性カレントはeν散乱やpν散乱のようにきわめて観測困難な過程にしか関与しないため,その最初の発見は1973年まで待たねばならなかった。理論的にはワインバーグ=サラムの理論でも中性カレントの存在が予言されており,その発見はその理論の正しさを実証するための重要な証拠となった。83年にはセルン(CERN)のグループによってZ0粒子そのものが発見されている。
執筆者:菅原 寛孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報