翻訳|antiparticle
相対性理論の要請に従う量子論(場の量子論)においては、素粒子には質量が等しく、電荷などの素粒子を特徴づけている量子数が異符号である粒子の存在が予言される。これを反粒子という。たとえば電子に対し陽電子が、陽子に対し反陽子がこれにあたる。また電荷などの量子数がゼロの粒子は、それ自身が反粒子であってもよい。光子がこの例である。
相対性理論によれば、エネルギーE、運動量P、質量mの粒子にはE2-c2P2=m2c4の関係がある。ここでcは光速を表す。量子論によれば粒子は波動でもある。相対論的波動方程式を解くと、E=(c2P2+m2c4)1/2の解と同時に E=-(c2P2+m2c4)1/2の解が存在する。負エネルギーの解が存在すると、エネルギーを放出していくらでも低いエネルギーの状態に粒子は遷移していけるので、安定な物質世界が得られない。場の量子論においては、正エネルギーの解は粒子をつくる演算子、負エネルギーの解は反粒子を消す演算子と再解釈して矛盾のない理論を建設する。これからもわかるように、粒子をつくることと反粒子を消すことが同じ量子数の変化を与えるので、粒子と反粒子はまったく逆の量子数をもつことになる。したがって真空にエネルギーを集中すれば粒子・反粒子が対(つい)生成し、また逆に粒子と反粒子はエネルギーのみを残して対消滅できる。場の量子論の要請によれば、粒子・反粒子の質量は等しく、不安定な粒子であればその寿命も等しい。
[益川敏英]
すべての粒子に対しその反粒子が存在する。電子の反粒子は陽電子であり,陽電子の反粒子が電子である。陽子の反粒子は反陽子であり,正電荷のπ⁺中間子と負電荷のπ⁻とは互いに反粒子である。中性粒子の中には反粒子が自分自身であるものがあり,光子やπ0中間子はその例である。しかし中性K0中間子とその反粒子K0は別のものである。クォークに対しても反クォークが存在する。
粒子と反粒子とは,質量,スピン,アイソスピン,寿命などの性質はまったく同じであり,電荷,粒子数(質量数),ストレンジネスなどの加算的量子数は,大きさが等しく逆符号である。したがって粒子と反粒子が合体したとき,系の量子数は真空と同じく0となる。すなわち両者は衝突して消滅し,残されたエネルギーが軽い粒子(光子,中間子など)となって出ていく。逆に十分なエネルギーが与えられれば,粒子と反粒子の対がつくり出される。高エネルギーの電子と陽電子を正面衝突させて消滅させ,そのエネルギーで粒子・反粒子対をつくる実験が,新しい粒子を見いだす有力な方法として用いられている。また陽子・反陽子衝突の実験も行われている。
場の量子論によれば,粒子は正の振動数をもつ波動に対応し,反粒子は負の振動数をもつ波動に対応する。したがって時間反転(時間の符号を変えること)が可能であるためには両者が存在しなければならない。ミンコフスキー時空で空間を横軸に,時間を縦軸にとって現象を記述するとき,粒子の運動は下方から上方に進む線で表され,反粒子は上から下へ向かう線で表される。上に進む線が1点で衝突し,方向を変えるのは粒子の散乱であるが,1点で衝突し方向を逆転して下へ進むという現象は粒子・反粒子の消滅である。また上から下に向かう線が1点で曲がり上に進むのは粒子・反粒子対の生成である。
粒子と反粒子とは同じ性質をもつので,物質の電子を陽電子でおきかえ,陽子を反陽子に,そのほかすべての粒子をその反粒子でおきかえた反物質が考えられる。反物質と物質が出会えば,激しく反応して消滅する。宇宙の遠方には反物質でできた世界が存在する可能性もある。宇宙のどこかに高等生物が存在し,そこと電話連絡がとれたとする。彼らが物質でできているか,反物質であるかを判定することができるだろうか。判定不能であるとき,物理は粒子・反粒子共役変換で不変であるという。粒子と反粒子はまったく区別がつかないのである。実際のところ粒子・反粒子変換の不変性は,崩壊現象などの弱い相互作用では成り立たないことが明らかとなった。例えば中性子はβ崩壊の際にスピンの向きと反対の方向に電子を多く放出するが,反中性子はスピンの方向に陽電子を出すのである。これは弱い相互作用の中に,反粒子変換で符号を変えるものと変えないものとが共存しているためである。
執筆者:宮沢 弘成
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電荷と内部量子数(レプトン数,バリオン数,ストレンジネス,チャームなど),磁気モーメント(をもつ粒子の場合)が通常の粒子と反対符号の素粒子(たとえば反クオーク,陽電子,反ニュートリノ)と,それらからなる粒子(たとえば反陽子,反中性子)など.質量,電荷量はまったく同一である.一般に,反ニュートリノのようにそれぞれの粒子の記号にバーを付けて表す.ただし,陽電子は普通,e+ と表す.反粒子の存在はP.A.M. Dirac(ケンブリッジ大学)の相対論的量子論(1928年)によって予言されていた.粒子と反粒子が接触すれば対消滅して,質量mとエネルギーEは等価
(E = mc 2,cは光速)
であるから,mに相当するエネルギーの光子が2個放出される.逆に粒子-反粒子対分の質量にあたるエネルギーを供給すれば,対生成が起こる.β- 崩壊は
n → p + e- +
で,放出されるニュートリノは反ニュートリノである.バリオンの陽子,中性子は保存されているが,e- のレプトン数は1なので,放出されるニュートリノはレプトン数-1の反ニュートリノでなければならない.β+ 崩壊では,逆に陽電子のレプトン数が-1であるから,+1のニュートリノが放出される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)
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…このように物理学が対象とした万物が原子からなり,その原子がすべてこの3種類の小さな粒子(陽子,中性子,電子)でできているとすれば,これらの小さな粒子こそ,もっとも基本的なものであり,このためこれらの粒子は自然を構成する素元的な粒子という意味で〈素粒子〉と呼ばれるに至ったのである。第2次世界大戦前までに,この3種類の粒子のほかにも,光子(フォトン),中性微子(ニュートリノ),電子の反粒子である陽電子などが素粒子の仲間に加えられ,素粒子の種類も増えていったのであるが,素粒子の存在が明らかになったことでミクロの世界の探究は一段落し,素粒子がミクロの世界の主役となった。 第2次大戦後は宇宙線研究の進歩や加速器の発達もあって続々と新しい素粒子が発見され,現在ではその数は何百にも達している。…
※「反粒子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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