化学辞典 第2版 「二色性」の解説
二色性
ニショクセイ
dichroism
物質の色または吸収曲線あるいは発光曲線が,物質の状態または入射光の偏光方向により変化する現象.
(1)着色物質の濃度が一定でも,液層の厚さの相違により溶液の色がかわる場合,あるいは厚さが一定でも濃度によって色のかわる現象を二色性という.たとえば,CrⅢ塩水溶液に見られる赤紫色と緑色がこの例である.
(2)異方性のある結晶では,光に対する選択吸収の波長領域を異にし,これを見る方向により,色を異にする.これを一般に多色性という.このうち,光の方向と結晶軸の相互関係により2種類の色を示す場合を二色性という.たとえば,[Co(NH3)3(H2O)Cl2]Clの結晶は,淡赤色と暗緑色のいちじるしい二色性を呈する.この塩はジクロ(二色の意味)塩とよばれる.
(3)異方性分子の吸収は分極している.このような分子の結晶は,偏光の電気ベクトルの方向により吸収強度が変化する.この現象も二色性とよばれる.これは紫外,可視,赤外領域に見られるが,後者のものは赤外二色性とよばれる.
(4)色素または染料が繊維基質に染着すると,多くの場合,偏光に対して二色性を示す.これを繊維二色性という.
(5)高分子基質の膜に,吸収に異方性のある物質を含ませて延伸すると,偏光に対して二色性を示すようになる.一種の繊維二色性現象である.
(6)分子またはその集合体がいちじるしい異方性を有する色素の溶液は,流動すると光学的異方性を現し,入射偏光の方向により色を異にする.これを流動二色性という.
(7)極性の強い分子に無極性溶媒中で高電場(直流)をかけると配向し,二色性現象を呈するようになる.
(8)等方性の物質に偏光を当てると光学的に異方性になる現象がある.これを光二色性という.偏光を当てている間だけ二色性を示すものを一次光二色性といい,偏光を当てた後まで二色性の残るものを二次光二色性という.
(9)以上の二色性は,直線偏光に対するものであるが,円偏光についても二色性の用語が用いられ,左右の円偏光に対する吸収係数の異なる現象を円二色性という.また,吸収物質を磁場内に置くときに左右の円偏光に対する吸収が異なるようになり,この現象は磁気円二色性とよばれる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報