日本大百科全書(ニッポニカ) 「交配不親和性」の意味・わかりやすい解説
交配不親和性
こうはいふしんわせい
交配(交雑)不和合性ともいい、交配(交雑)親和性の対語で、植物にしばしばみられる性質である。交配に用いる両親の生殖器官は機能的に完全であるにもかかわらず、それらの間で交配した場合に、正常な花粉管の伸長や受精、胚(はい)形成などがみられない場合があり、そのような現象を交配不親和性といい、またそのような現象の現れる交配組合せを交配不親和の組合せとよぶ。なお、それらの両親を交配親和性がないという。
狭義では、サクラソウ、ハクサイ、日本ナシなどのように発現機構が自家不親和性の発現機構と同じものをさす。これには主として2型がある。一つは、1対の芽胞体型遺伝子組合せによって説明されるもので、異型花柱花型といい、ソバやサクラソウでみられる。これは、長短2型ある雌しべのうち、長花柱花個体と短花柱花個体の相互間受粉においては受精は容易であるが、同型花柱個体間では受精しにくい。他の型は、S1、S2、S3……など、一連の複対立離反遺伝子群によって説明されるもので、同じ遺伝子だけをもつ個体間の交配では不親和である。ただし、自家あるいは同じ離反遺伝子のみをもつ他個体の花粉でも、雌性親がつぼみのうちか、逆に老花になってから受粉すると正常な種子ができる。前者をつぼみ受粉、後者を老花受粉とよぶ。日本ナシでみられるように、離反遺伝子による場合、品種間交雑によって得られる子供のうち半数は花粉親と不親和である。このような現象を偏父性不親和とよんでいる。交配不親和を物質的にみて、花粉発芽や花粉管伸長阻害物質の存在によるとする説、花粉管から出る抗原と花柱内にできる抗体との関係によるとする免疫学的反応説などがある。
[飯塚宗夫]