人民民主制(読み)じんみんみんしゅせい(英語表記)people's democracy

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人民民主制」の意味・わかりやすい解説

人民民主制
じんみんみんしゅせい
people's democracy

ソ連以外の社会主義国家体制の総称。第2次世界大戦の末期から戦後へかけて,ファシズムとの戦いのなかで,あるいは植民地支配との戦いを通じて誕生した,社会主義を目指す諸国家の政治体制。初めヨーロッパ諸国に成立した政治体制をさしていたが,そののちに出現した中国,北朝鮮ベトナムの政治体制も,一括されることとなった。いずれもソ連型とは異なる社会主義国家への道であるとされた。その革命目標は民族解放と民主主義で,ファシズムに対しては,東ヨーロッパ諸国におけるような国民戦線が形成され,中国においては無産者,農民民族ブルジョアジーを含めた抗日民族解放運動が展開されたのが端緒である。しかし,東ヨーロッパ諸国では,戦後になってブルジョア民主主義再建を目指すブルジョア勢力と社会主義体制の実現を目指す労働者勢力とが分裂し,後者は,国民戦線を基本として,人民会議を最高機関とする政治体制を主張し,産業の国有化ないしは土地革命の遂行を目標として実権を掌握するにいたった。中国でも,国民党=共産党の分裂抗争に象徴されるように,ブルジョア勢力と労働者勢力との分裂がみられ,共産党の政権掌握による人民共和国が誕生した。北朝鮮,ベトナムの場合も,民族解放のための戦いが戦後ブルジョア民主主義との対立に転化して,人民共和国の実現をみたものである。いずれも議会主義権力分立を否定し,人民会議を形式的に最高機関とする。政党については,ソ連の1党独裁とは異なり,民族解放のための統一戦線からの継承として多党制をとる場合があるが,共産党によって実質的に支配される点で共通する。しかしソ連型の社会主義国家と同様そこでは思想・表現の自由をはじめとする基本的人権が実質的に存在せず,また当初に期待されたほどの生活水準の向上も実現しなかった。特に東欧では国民の不満をソ連の軍事力を背景に抑えつけていたが,社会主義政権の崩壊と相前後して,東欧の人民民主制は一気に瓦壊した。

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