議会政治が最良の政治である、という政治思想。その根拠は、議会は国民の自由な意志によって選挙された代表者の構成する会議体であるから、国民代表的性格をもつ国の最高機関であり、したがって議会の決定はすべて合法的で、議会の決定に国民が従うことが政治の安定を保障する、という考え方に基づく。
このような議会主義は、近代市民階級が絶対王制を打倒して近代国家を樹立したときに登場した。その後、各国は議会主義の原理によってしだいに民主政治を発展させていったが、制限選挙の時代には、議会が真に国民代表的性格を具備していないという理由で、議会主義に対する批判がなされた。この代表制をめぐる問題は、各国において普通選挙制を実現するなかで徐々にその解決策が図られていった。
ところで、議会主義は、普通選挙制実施後のいわゆる大衆民主主義(マス・デモクラシー)時代に入って別の角度からさまざまな批判を招くことになる。たとえば、当時における議会の決定の多くが「資本の論理」(ラスキ)によってなされているという議会の特殊利益擁護に対する批判、国家機構が巨大化し複雑化すればするほど、ますます一般大衆の意志が国家の下す決定に反映されにくくなっていることに対する不満などがそれである。こうなると、ケルゼンHans Kelsen(1881―1973)が批判しているように、「議会のみが人民の代表者であり、人民はその意志を議会においてのみ、また議会によってのみ発表できる」という議会主義の主張は、さまざまな国民利益の実現を損なう現実政治とはかならずしも合致しないように思われた。なぜなら、この論理は、議会の決定を絶対のものとして、実際には特殊利益を擁護し、また議会の決定に異議を唱える議会外からの批判を封じ込め、また議会の行動に反対する大衆行動を非合法なものとして抑圧する口実を議会に与えることになったからである。
このため、第二次世界大戦終結までは、ソ連以外のほとんどの国々で非合法化されていた共産党は、議会をブルジョアジーの階級支配の道具とみなして議会主義に反対し、それにかわるものとして「プロレタリアート(労働者・農民階級)の独裁」によるまったく新しい政治形態の創設を主張した。また議会を通じて社会主義の実現を図ろうとした社会党(社会民主主義者)は、たとえば、直接民主制的規定を多用することによって国民の意志が随時、国政に反映できるよう提案(ケルゼン)したり、あるいは、議会に社会主義者を多数送り込んで議会の性格を「資本の論理」から「全国民的利益」へと変更させようという提案(ラスキ)をしていた。
第二次世界大戦後、多数の国々において議会政治が大きく前進し、共産党も合法化され政治活動の自由が保障された。またファシズム国家にみられた議会政治の否定が独裁政治をもたらしたという歴史的経験は、国民の議会に対する評価を高めた。こうした状況の変化のなかで各国共産党のなかにも、国民多数の支持を獲得しつつ議会で多数を占めることにより社会主義から共産主義へと進む方向を追求する動きが現れた。さらに、1991年末のソ連の社会主義体制の崩壊は、全世界に衝撃を与え、ソ連を構成した15か国やソ連陣営から離脱した東欧諸国でも「共産党一党独裁」から議会主義による政治制度が確立された。このため議会主義をとらない国々は、中国、北朝鮮、キューバ、ベトナムなどに限られるが、近代史の発展からみて、これらの国々も将来的には議会主義的政治思想を採用するのではないかと思われる。
[田中 浩]
『ケルゼン著、西島芳二訳『デモクラシーの本質と価値』(岩波文庫)』
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…狭い意味では,議院内閣制の機構によって行政権に対するコントロールを及ぼすことまでを含めて,議会が国政において決定的役割を果たす制度だけを指し,アメリカ型の大統領制は,そこから除外される。この狭義の使い方とほぼ重なるものとして,議会主義という言葉が使われることもある。 議会が民意の反映というたてまえを掲げつつ国政機構のなかで多かれ少なかれ中心的な役割を果たしていくためには,一定の条件が必要であった。…
※「議会主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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