改訂新版 世界大百科事典 「仲間事」の意味・わかりやすい解説
仲間事 (なかまごと)
江戸幕府の民事裁判手続(出入筋(でいりすじ))において,訴権が認められなかった債権関係をいう。《公事方御定書(くじかたおさだめがき)》は,〈連判証文有之諸請負徳用割合請取候定〉(共同事業者相互間の損益勘定),〈芝居木戸銭〉(座元・金主間の収益配分),〈無尽金〉(頼母子講(たのもしこう)の掛金・当り金請求)の3種を規定している。これらはいずれも当事者間の強い信頼関係を基礎とした〈相対(あいたい)〉の契約によるものであり,一方,契約の内容自体,収益的性格が強く封建道徳上好ましからざるものと考えられたため,たとえ紛争が生じても権力が関与する必要はないとされたのである。これは,〈金公事(かねくじ)〉(通常の借金銀など利息付・無担保の金銭債権に関する給付訴訟)に対する訴訟法上の冷遇措置を,さらに徹底したものといえる。手続的には,訴を提起しても〈目安糺(めやすただし)〉(訴状の形式審査)の段階で〈無取上(とりあげなし)〉(不受理)とされるが,訴訟係属後に仲間事と判明した場合もやはり裁許(判決)は与えられず,沙汰に及ばぬ旨申し渡されるのである。もっとも〈無取上〉であっても債権自体が消滅するのではなく,〈相対にて済す〉すなわち当事者間で弁済すれば,それは有効な弁済である(自然債務)。この仲間事不受理の制は,明治初年まで存続した。
→相対済令(あいたいすましれい)
執筆者:神保 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報