江戸幕府法における民事訴訟(公事)のうち借金銀,売掛金などおもに利息付または無担保の金銭債権に関する訴訟の総称。本公事(ほんくじ)に対する概念で,金銀出入ともいう。本来この種の訴訟は当事者の実意により相対で解決すべきものであるとして,幕府は和解(内済(ないさい))を強く指導した。訴訟手続上は出訴最低額の制限,原告だけの申立てによる内済の成立(片済口(かたすみくち))などのほか,とくに債務の長期分割弁済(切金(きりがね))に顕著な特徴があり,また訴訟がおびただしくなると相対済令(あいたいすましれい)が出されるなど,債権保護の点で本公事よりも冷遇されていた。しかし1843年(天保14)老中水野忠邦による天保改革に際して金公事法制は改正され,債務者が百姓町人の場合については切金を適用せず総財産に対する強制執行(身代限(しんだいかぎり))を速やかに行うようにするなど,先進的な大坂町奉行所の法の導入によって債権保護が強化され,以後本公事との差異は実質的に僅少となって明治に及んだ。
→出入筋(でいりすじ)
執筆者:神保 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
江戸時代の借金銀・売掛金・立替金など,主として無担保・利子つきの金銭債権,もしくはその債権の実現を求める民事的訴訟のこと。本公事に比べて幕府による訴権の保護が薄く,しばしば相対済令(あいたいすましれい)によって訴権を棄却された。また訴え出る最低額が定められていたこと,幕府や藩が強く内済(ないさい)(和解)を奨励したことなどが特徴としてあげられる。金公事は出入筋の手続きによって争われ,債務が確定した債務者には,奉行所から弁済が命じられた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…江戸時代,金銀貸借・売掛金などに伴う紛争の訴訟(金公事(かねくじ))は受理しないから,当事者が相対で処理するようにという法令。数度にわたって出されているが,1719年(享保4)11月のものがもっとも有名。…
…また金銭の給付判決では,裁許申渡しは〈日限(日切)済方(ひぎりすみかた)〉申付,すなわち一定期限付の債務弁済命令をその内容とするが,これに対して被告債務者は,判決遵守を誓約した〈日限証文〉(日限手形)を奉行所に提出する(金銭以外の給付判決でも同様で,例えば店立(たなだて)命令に対して被告は〈店立証文〉を提出する)。金公事(かねくじ)ではこの場合,債務完済まで日限証文を原告に所持させて,切金(きりがね)済方(分割弁済)のたびに紙を継ぎ足してその旨記載していった(1843年(天保14)の金公事改革で廃止)。以上は江戸時代後期における一般的な手続であるが,時期により,また訴訟の内容等によって,判決書や請証文の形式・名称は一様でなく,請証文は申し付けずに裁許状を下付する〈(裁許)書下し〉,請証文の写しを奉行所で作成して下付する〈上げ証文〉,請証文を当事者間で交換する形式の〈取替証文〉なども行われた。…
…子が親を,従者が主人を訴えることは原則として禁止された。出入筋には,その対象により本公事(ほんくじ),金公事(かねくじ)の別があり,ほかに仲間事(なかまごと)と称する一種の請求がある。金公事は利息付無担保の金銭債権の争いで,本公事はその他の身分,地所,用水,家督,質地,家質(かじち),為替,小作人,奉公人,借地借家,村法違反等で,金公事が当事者間の給付の問題であるのに対し,人および物に対する秩序の形成,確認を伴い,官憲が介入する必要度が高い。…
…内済は裁判のどの段階においても行うことができ,審理の進行中も裁判役人はつねに内済の成立に努め,内済の可能性があるうちは何度も〈日延願(ひのべねがい)〉を許す。〈論所(ろんしよ)〉(地境論=境相論,水論など)や〈金公事(かねくじ)〉(借金銀など利息付,無担保の金銭債権に関する訴訟)ではとくに強く内済が勧められ,制度的にも,用水論などでは訴状に裏書(目安裏判(めやすうらはん),目安裏書)を与える前に現地での熟談内済を命じ(場所熟談物),金公事では目安裏書に内済勧奨文言を加え,あるいは原告だけの申立てによる内済(片済口(かたすみくち))を認めるなど,特別な手続が定められていた。刑事裁判手続(吟味筋(ぎんみすじ))においても場合によって内済が許される(吟味(願)下げ)。…
…これらはいずれも当事者間の強い信頼関係を基礎とした〈相対(あいたい)〉の契約によるものであり,一方,契約の内容自体,収益的性格が強く封建道徳上好ましからざるものと考えられたため,たとえ紛争が生じても権力が関与する必要はないとされたのである。これは,〈金公事(かねくじ)〉(通常の借金銀など利息付・無担保の金銭債権に関する給付訴訟)に対する訴訟法上の冷遇措置を,さらに徹底したものといえる。手続的には,訴を提起しても〈目安糺(めやすただし)〉(訴状の形式審査)の段階で〈無取上(とりあげなし)〉(不受理)とされるが,訴訟係属後に仲間事と判明した場合もやはり裁許(判決)は与えられず,沙汰に及ばぬ旨申し渡されるのである。…
※「金公事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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