民事訴訟の類型の一つ。原告(訴えを起こす者)が被告(他の特定の者)に対して一定の金銭の支払を求めたり,特定の土地や家屋の明渡しを求める場合など,訴訟のテーマ(請求)としての原告の法的要求が,被告に対して一定の行為をなすこと(作為),またはなさないこと(不作為)である訴訟をいう。〈登記申請に協力せよ〉というような意思表示を求める場合や,〈何ホン以上の騒音を出すな〉というような不作為を求める場合も,これに含まれる。抽象的にいえば,原告の被告に対する給付請求権(または給付を求める地位)があるかないかが争われる訴訟が給付訴訟である。〈給付の訴え〉ともいわれる。
給付の訴えが適法なものとしてとりあげられるためには,訴訟で争うこと自体を正当化するだけの利益または必要性(訴えの利益)がなければならない。たとえば,相手方がすでに原告の要求どおりの支払や引渡しをなす用意があることを表明しているのに,わざわざ訴訟に持ち込むのは,利益のない訴えとして却下される。履行期がまだ到来していない債権や条件が成就していない将来の権利を主張する場合は,あらかじめ勝訴判決を得ておく特別の必要性が認められれば許されるが,そうでないかぎり利益のない訴えとみなされる(民事訴訟法135条)。このような将来の給付請求権を主張する訴えは,〈将来の給付の訴え〉と呼ばれる。
給付の訴えは,他の訴訟類型(確認訴訟,形成訴訟)に比べて沿革的にももっとも古くから発達してきた類型であり,実際上も,現実の訴訟事件のなかで圧倒的な利用率を占めている。その理由は,被告が何をなすべきかの規範が簡明に設定されるので,紛争の解決方式としてもっとも直截的であることに求められる。
給付の訴えにおいて原告の請求を認容する判決(給付判決)は,〈被告は原告に金1000万円を支払え〉というように,被告に一定の作為,不作為を命ずる形をとる。原告は,被告がなお履行しない場合には,この確定判決に基づいて判決で宣言された内容を強制的に実現することができる(強制執行)。給付判決には,原則としてこのような〈執行力〉がともなうのがその特徴である。給付判決には,この執行力のほか,原告の被告に対する給付請求権が存在することをもはや争うことができないという効力(既判力)も生じる。給付の訴えにおける請求棄却判決には,執行力はもちろんなく,原告の給付請求権が存在しないことについて既判力が生じるだけである。
なお,給付訴訟と確認訴訟とが理論上どのような関係にあるかについては,十分に解明されていない問題も残されている。
→訴え
執筆者:井上 治典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…〈請求の趣旨〉とは,訴えの結論として何を求めるかを簡潔に表示するものであり,勝訴判決の主文に照応する。訴えは,求められる内容から,給付の訴え(給付訴訟),確認の訴え(確認訴訟),形成の訴え(形成訴訟)に分類されるが,このそれぞれの請求の趣旨は,たとえば,被告は原告に金100万円を支払えとの判決を求める,原告が某建物について所有権を有することを確認するとの判決を求める,原告と被告とを離婚するとの判決を求める,というように記述される。これは,〈訴訟上の請求〉(または単に,請求),訴訟物と講学上呼ばれるものにほぼ対応する。…
…通常,訴訟物につき対立した利害関係の帰属主体であると主張する者が正当な当事者である。給付訴訟では,訴訟物たる請求権を主張し,その義務者と主張される者がこれである。訴訟物が当事者間の法律関係に限られぬ確認訴訟では,訴訟物たる法律関係の存否不明により生じる自己の法律的地位の不安危険を確認判決をもって除去する利益(確認の利益)を有する者と,かかる事態を生ぜしめている者がこれである。…
※「給付訴訟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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