沙汰(読み)サタ

デジタル大辞泉 「沙汰」の意味・読み・例文・類語

さ‐た【沙汰】

[名](スル)《「沙」は砂、「汰」はより分ける意》
物事を処理すること。特に、物事の善悪・是非などを論じ定めること。裁定。また、裁決・裁判。「地獄の沙汰も金次第」
決定したことなどを知らせること。通知。また、命令・指示。下知。「沙汰があるまで待て」「沙汰を仰ぐ」「詳細は追って沙汰する」
便り。知らせ。音信。「このところなんの沙汰もない」「音沙汰」「無沙汰
話題として取り上げること。うわさにすること。「事件の真相たるや、世間であれこれ沙汰するどころの話ではない」「取り沙汰
問題となるような事件。その是非が問われるような行為。「正気の沙汰ではない」「おもて沙汰」「色恋沙汰」「警察沙汰
[類語](2命令言い付けめいれい指令下命指示指図さしず号令発令主命君命上意達し威令厳令厳命/(3便り音信音沙汰/(5行動行為行い振る舞いきょ活動動き所行しょぎょう言動言行げんこう行状ぎょうじょう行跡ぎょうせき

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精選版 日本国語大辞典 「沙汰」の意味・読み・例文・類語

さ‐た【沙汰】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「沙」はすな、「汰」はえらび分けるの意 )
  2. 水中でゆすって砂の中から砂金や米などをえり分けること。転じて、物、人物の精粗をえり分けること。淘汰。
    1. [初出の実例]「一泓池(ためいけ)を造り、其傍にて沙汰瀘過する処置を設け」(出典:西洋聞見録(1869‐71)〈村田文夫〉後)
    2. [その他の文献]〔蜀志‐許靖伝〕
  3. 物事の是非をえらび分けて正しく処理すること。
    1. (イ) 政治上の処理。政務のとりさばき。
      1. [初出の実例]「所司冝詳沙汰、明作条例奏聞」(出典:続日本紀‐延暦五年(786)四月一一日庚午)
      2. 「宇治殿入り居(ゐ)させ給て、世のさたもせさせ給はず」(出典:栄花物語(1028‐92頃)煙の後)
    2. (ロ) 知行すること。庄務を行なうこと。
      1. [初出の実例]「右件所者、藤原季家依相伝之由緒、給府宣沙汰之処、為神崎郡住人海六大夫重実之」(出典:諫早家系事蹟集‐文治二年(1186)八月九日・源頼朝下文)
    3. (ハ) 年貢諸役をとりたてること。また、それを納入すること。
      1. [初出の実例]「右件御年貢は、今年八月内にけたいなく沙汰しつかまつり候へく候」(出典:東寺百合文書‐は・弘安二年(1279)三月一八日・平成近請文)
    4. (ニ) 弁償すること。支払うこと。負債等を分担すること。
      1. [初出の実例]「犯用之条若無遁者、任員数弁償之、但於少分者早速可沙汰」(出典:御成敗式目(1232)五条)
    5. (ホ) とりたてて行なうこと。考えて取り計らうこと。
      1. [初出の実例]「あさましき事出で来て、今様沙汰も無かりしに」(出典:梁塵秘抄口伝集(12C後)一〇)
      2. 「本気の沙汰とも思はれない事を本気の沙汰らしく云ふ」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉六)
    6. (ヘ) 殺すこと。成敗すること。
      1. [初出の実例]「一昨日畠山・遊佐、於八幡て細川披官人を沙汰云々」(出典:大乗院寺社雑事記‐長祿二年(1458)一〇月四日)
  4. 物事の是非や善悪などをとりさばくこと。
    1. (イ) 裁判。訴訟。公事。
      1. [初出の実例]「中筭、風(おこり)たりと云て、沙汰(さた)の庭に不出ざりければ」(出典:今昔物語集(1120頃か)三一)
    2. (ロ) 問題として論議すること。検討。評議
      1. [初出の実例]「明日行幸御出方角沙汰也」(出典:中右記‐永長元年(1096)正月一〇日)
      2. 「呉音漢音の沙汰は呉漢軽清燕趙重濁と云ふは国を以て云ふぞ」(出典:史記抄(1477)九)
    3. (ハ) 論議される点。教理。
      1. [初出の実例]「ある時は真言の深きさた、浄土の宗旨などを尋ねさせ給つつ」(出典:増鏡(1368‐76頃)八)
  5. 情報を与えること。
    1. (イ) 決裁されたことについての指令。指図。命令。下知。
      1. [初出の実例]「方今係綸不諸儒、沙汰独在少臣」(出典:本朝文粋(1060頃)七・申犯平頭及第不及第并犯蜂腰落第例等状〈紀斉名〉)
      2. 「みのさうぞく、ほかいなどまで、みなかみより御さたあり」(出典:たまきはる(1219))
    2. (ロ) 報知。報告。通知。消息。たより。また、吹聴すること。
      1. [初出の実例]「翁申すやう、沙汰に及び候はず、参り候べし」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一)
    3. (ハ) 話題にすること。評判。うわさ。
      1. [初出の実例]「後に、賀茂の者どもさたすと、資賢語りしにぞ聞きし」(出典:梁塵秘抄口伝集(1169)一〇)
    4. (ニ) ( 他の語に付けて接尾語のように用いることもある ) 話題になっている事件。
      1. [初出の実例]「斎院卜定所自御本所当大将軍方、可避忌哉否事、〈略〉今度沙汰出来、猶可憚歟」(出典:中右記‐大治二年(1127)三月六日)

さた‐だし【沙汰】

  1. 〘 形容詞シク活用 〙 うわさになるさまである。評判になるほどである。
    1. [初出の実例]「いたくさただしく御あそびなどありとて」(出典:愚管抄(1220)四)

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改訂新版 世界大百科事典 「沙汰」の意味・わかりやすい解説

沙汰 (さた)

日本中世で決定,命令,処理など広範な意味に用いられる語。(1)権力者が政務を執ること(世の沙汰をする)。(2)土地の支配・領有に関して,(a)土地を知行する(所を沙汰する,庄務を沙汰する)。(b)年貢などを徴収または納付する(年貢を沙汰する)。これを怠る行為や状態は無沙汰といわれる。(3)とくに中世的な法律用語としては,是非善悪を論じ子細を明らかにするという原意があって,(a)裁判,訴訟のこと。所務沙汰(不動産訴訟),雑務沙汰(動産および債権に関する訴訟),検断沙汰刑事訴訟)などと用いる。〈沙汰し付く〉というのは実力によって執行すること。(b)支払う,または弁償する。弁済と同義。〈沙汰し弁(わきま)う〉という用法もある。(4)その他,決定する(恩賞を沙汰する)。論議することおよびその論点。命令,指示,職務に伴う責任などを含めて〈何某の沙汰として〉とか〈何々の沙汰あるべし〉などと用いる。また報告,通知の意味もあり,《日葡辞書》は話,うわさ,取調べを掲げる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「沙汰」の意味・わかりやすい解説

沙汰
さた

鎌倉幕府の裁判制度を初心者向きに解説した書である『沙汰未練書』に、「沙」は砂、「汰」は選び分ける義であるから、砂を水中で揺すって中から砂金などを選別することをいうとの趣旨が述べられている。これは字義にもっとも近い説明であろう。「沙汰」はここから転じて、人や物事の是非、善悪、精粗を選び分け、正しく判断し処理する意味となった。この意味に近い用法には、中世における「裁判」「訴訟」をさすときの沙汰があり、すこし意味が広がって「評議する」「議論する」ことも沙汰といわれた。次には訴訟や評議の結論を執行すること、たとえば勝訴者に係争地を引き渡すことを「沙汰し付ける」「沙汰し据える」などという用法がある。この意味が拡大すると指図や命令そのものが沙汰と称され、また命令に従って政務を行うこと、荘園(しょうえん)の荘務を行うこと、具体的にいえば、年貢を賦課したり徴収したりすることとか、年貢や負債を支払うことも沙汰と表現された。さらに直接政務にかかわらない伝達事項や通知、ニュース、噂(うわさ)といったことも沙汰といわれる。「沙汰の限り」という語が鎌倉幕府文書に出てくるときは、「幕府の裁量限度」といった原義に近い使われ方をしているが、近世や現代では「もってのほか」といった意の一般的な言い回しになっている。これらのことは、この語のもつ意味の広がりをよく表している。

[桑山浩然]

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普及版 字通 「沙汰」の読み・字形・画数・意味

【沙汰】さた

よりわける。淘汰。〔三国志、呉、朱拠伝〕是の時、書曁(きえん)、貪汚にして位に在るものを疾(にく)み、之れを沙汰せんと欲す。

字通「沙」の項目を見る

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「沙汰」の解説

沙汰
さた

執務すること,取り扱うこと。とくに訴訟・裁判・判決をさしていう。中世後期の式目注釈書はしばしば沙汰を「イサコヲユル(砂を選る)」ことと説明している。砂中から砂金を選び出すことで,理と非を弁別する意味であるという。訴訟・裁判をさす沙汰は多くの複合語の語素となり,所務沙汰・検断沙汰・雑務沙汰など裁判類型をさす語として使用された。また尋沙汰(たずねざた)・明沙汰(あきらめざた)など個々の手続きをさす語としても使用された。ほかに「日葡辞書」が沙汰を,話・うわさ・取調べとしているのをはじめ,政務を執ること,所職(しょしき)を知行すること,年貢を徴収または納付すること,弁済・弁償すること,議論し決定することなど,多様な意味に用いられた。

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百科事典マイペディア 「沙汰」の意味・わかりやすい解説

沙汰【さた】

元来は物を選りわけること,淘汰をいう。転じて理非を論じて極めることをいい,中世には決定・命令・処理などを表す語として広く用いられた。政務を裁断・処理すること,土地を領有すること,年貢を納めること,評定・裁断・訴訟のこと,支払・弁償のこと,主君・公儀の命令・指図などに〈沙汰〉を用い,さらに報告・通知の意味から便り・知らせ・評判・噂・行い・事件などにも〈沙汰〉の用語があてられた。
→関連項目沙汰未練書

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「沙汰」の意味・わかりやすい解説

沙汰
さた

中世用語で,いろいろな意味に用いられる。 (1) 裁断する場合,検断沙汰,所務沙汰,(2) 支配させる場合,沙汰付,沙汰居などと用い,ほかに (3) 命令を遂行する,(4) 年貢を納めるなどの意味があり,現今でも用いられる取沙汰,無沙汰などは収税,滞納を意味した。 (→沙汰人 )

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世界大百科事典(旧版)内の沙汰の言及

【知行国】より

…古代・中世,律令制の国のうち,国司以外の公卿・廷臣や社寺等が吏務(りむ)(支配・統治の実務)の実権をもつ国。沙汰国,給国ともいい,吏務の実権をとる者を知行主とか国主という。 律令制の地方統治制度である国司制度がしだいにくずれ,国守(=受領)の地位が利権化する一方,公卿・廷臣らの俸禄制度が無実化するにともない,11世紀中ごろから公卿の子弟を諸国の守に任命し,その公卿に吏務の実権をとらせ(これを知行とか沙汰という),その間に収益を得させることがしだいに慣例となった。…

※「沙汰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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