ものの授与、売買、貸借などに関してとりかわされる、非政治的な文書の類を総称していう。
日本では平安時代の後半期に私有地である荘園が増加し,その結果土地に関する紛争が生じた。この紛争ははじめ公家(院政)の裁判を受けた。この訴訟で,当事者は互いに自己の主張を支える文書を〈副進〉として提出し,これを証文と称した。早い例を挙げると,1159年(平治1)8月27日紀伊国荒川荘の訴訟について高野山に下された美福門院令旨には,〈荒川御庄 院庁御下文遣之,永納寺家,可備証文也者(下略)〉とある。これは,院庁御下文を遣わすから今後訴訟のとき証文として使用できるよう大切に保存せよ,との意味である。1186年(文治2)5月鎌倉殿に提出された高野山住僧等訴状には〈副進 証文等〉として〈院庁御下文案六通〉〈院使等注文案二通〉を記している。1232年(貞永1)制定の御成敗式目49条には,双方の証文の理非顕然の場合は対決を行わず判決を下しうると定められていた。
執筆者:平山 行三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
契約を締結する際、当事者が自己の債務を認めて交付する書面あるいは契約書を俗に証文ということがある。とくに、金銭消費貸借において、借り主が貸し主に対して交付する債務承認の書面を証文とよぶことが多い。このような証文が交付されると、金銭の貸し借りの証拠となり、また、時効が中断されるなどの効果が生じる。
[淡路剛久]
…契約行為は広くみれば,物の取引・譲与について人間相互に交わされる契約(売買,貸借,相伝,預託,譲渡,和与,寄進など)と,人格関係の設定(僧俗間の主従契約など),職(しき)の補任(ぶにん)と請負,人間相互の共同目的の実現(一揆など)などについて相互に交わされる契約とに大別できるが,それぞれの行為が中世では分化・独立し,固有の文書が作成されることが多かった。一般に契約の結果として作成された文書を証文という。【小田 雄三】
〔法律上からみた契約〕
法律上は,契約とは広い意味では何らかの法律効果の発生を目的とした,2人以上の当事者の合意一般をいう。…
…日本の古文書の一様式。ある事実を証明する証拠能力を有する文書の総称としての〈証文〉と同義に使われることも多いが,とくには,訴訟の裁定のために提出を要請される書面証言を記した文書。後者の場合は,むしろ〈起請文〉〈誓状〉の一形式であって,〈相論の時,証人に尋ねらるるの事,訴論人の注文につき,両方の縁者を除き,起請文の詞を載せて証状を召さるるの条,傍例たり〉(《山田氏文書》1300年(正安2)7月2日鎮西下知状)といわれたように,裁判機関の問状(といじよう)をうけて,起請文をもって提出された。…
※「証文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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