改訂新版 世界大百科事典 「伝票式簿記」の意味・わかりやすい解説
伝票式簿記 (でんぴょうしきぼき)
伝票が日本に導入されたのは,明治初期に官庁と国立銀行の簿記制度で取引の記録用具と定められてからである。以後実業界に普及したのは貸借仕訳法の伝票ではなく,イギリス人銀行家シャンドAllan Shand独創の現金仕訳法の伝票である。〈伝票〉とは薄手の狭い細片の紙型を意味し装釘式帳簿の紙型と峻別されるが,簿記上の伝票か帳簿かの区別は紙型ではなく,記録内容が取引か簿記の計算過程かの相違による。日本固有の〈伝票式簿記〉の典型には,(1)第2次大戦前に商法,税法,会計人等の帳簿に関する見解が,まだ装釘された紙葉にペン書きするものという形式主義が支配的であった当時,すでに銀行等で手書きの現金仕訳法の伝票に日計表を添付して仕訳帳の代用としたものと,(2)戦後の1949年に日本経営学会で発表されて以来急速に普及した能率簿記とがある。後者は伝票,仕訳帳,総勘定元帳,各種の補助元帳を転記なくしていかに作成するかを研究課題として,科学的に開発された簿記システムである。青色申告帳簿として承認されているので実務上,またコンピューターに適応するのでコンピューター簿記として,大部分の企業がすでに利用している。〈伝票制度〉とは,取引と簿記の計算を記録するための伝票と帳簿の仕組みである。伝票制度は次の三つに分類される。(1)伝票と帳簿を対立させ,前者は取引を,後者は簿記の計算を記録内容とする(たとえばイタリア簿記の伝票制度)。(2)伝票を帳簿の一部に代用する(たとえば伝票を仕訳帳に代用する伝票制度)。(3)伝票と帳簿の統一物として仕訳票と勘定票を使用する(たとえば能率簿記の伝票制度)。
執筆者:品田 誠平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報