日本大百科全書(ニッポニカ) 「体表面電位計」の意味・わかりやすい解説
体表面電位計
たいひょうめんでんいけい
動物の体は電気の良導体であるため、心臓の活動電位は体内を伝播(でんぱ)して体表面に到達する。この活動電位を、胸壁周囲に多数の電極を配置して同時に測定し、いろいろな電子回路を利用して観察する装置が体表面電位計である。普通の心電計で観測される心電図も、四肢や胸壁に電極を置くことから体表面電位の一部分であるが、普通の心電図が時間軸に応じた電圧変化で示されるのに対し、体表面電位図は体表面での電圧が二次元パターンで表される。つまり、体表面電位分布は、心臓の起電力の分布を体表面に投影した図形と考えられるから、心臓の興奮状態を時間を追って理解することが容易となる。
体表面電位の測定には胸壁全周に100個程度の電極を配置し、それぞれを増幅回路で増幅したのち、A‐D変換装置(アナログ信号を一定の標本化間隔でデジタル量に変換する装置)で数値化し、バッファメモリ(データの発生時点や流れを調整するのに用いられる記憶装置)に格納する。次にデータの補間、平滑化などの処理を加え、輝度変調、色調変調、あるいは等高線、面積記号などの方法で表示する。これらの処理手順からもわかるように、体表面電位図の表示にはマイクロコンピュータおよびマイクロエレクトロニクス技術が全面的に採用されている。こうした研究の目標は、体表面電位分布から電場伝播方程式を逆に解いて心臓の電気興奮を直接視覚的に観察することにあるが、体内の電場伝播は減衰が著しいことから、逆問題の分析は不安定となりやすく困難が大きい。なお、脳電位図というのがあるが、これは同様の概念で脳活動電位の頭部皮膚表面での分布図を描くものである。
[古川俊之]