心電計(読み)シンデンケイ

デジタル大辞泉 「心電計」の意味・読み・例文・類語

しんでん‐けい【心電計】

心臓の拍動に伴う心筋活動電位または活動電流をとらえて記録する装置。得られた波形は心電図とよばれる。ECG(electrocardiograph)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「心電計」の意味・わかりやすい解説

心電計
しんでんけい

心臓の拍動に伴う心筋細胞の活動電位の時間的変動を曲線として記録・表示する装置をいい、得られた曲線を心電図とよぶ。

[古川俊之]

歴史

心電計の開発は、オランダの生理学者アイントホーフェンが1903年に、海底電信用の弦線電流計を改良し、人の手足を食塩水を満たした容器に浸(つ)けて心臓の活動電流を記録したことに始まる。彼は1924年にノーベル医学生理学賞を受けた。その後、真空管を使った増幅器が発明され、交流電源の静電誘導によるハム雑音を減ずる差動増幅器、さらにはトランジスタ集積回路などの開発を取り入れて、小型化をはじめ、操作性、信頼性、安全性などの多面的な改良が進められてきた。

[古川俊之]

用途

心電図による情報は不整脈や心筋障害などの心臓疾患の診断にあたっては欠くことのできないものであり、心音や心内圧など循環器系の生体現象を観察する際には時間測定の基準点(一種のタイムマーカー)としての役割をもつため、かならず同時記録される。こうした理由によって心電計は、医用電子装置のなかでももっとも普及率の高いものであり、平均するとすべての診療施設において1台以上が常備されていることになる。

[古川俊之]

心起電力と電極

心電計は心起電力(心臓から発する起電力)によって生体の異なる部位の間に生じる電位差を連続的に記録するが、その電位差は数十マイクロボルトから10ミリボルトまでと小さく、周波数にして200ヘルツ以下から0.05ヘルツ程度までとなる。また心電図を測る際には体表面の皮膚に電極を取り付けるが、皮膚は接触抵抗が大きく、皮膚と電極との間には分極電圧が生じる。これらを解決するために心電計にはさまざまな対策がとられている。まず、1メグオーム以上の高インピーダンスの前置増幅器で電位差をひずみなく増幅する。さらに、分極電圧を遮断するためには入力にコンデンサーを入れるなどのくふうのほか、電極には分極電圧の少ない銀‐塩化銀電極が用いられたり、電極と皮膚の間に、飽和食塩水あるいは5%重曹水に浸したガーゼペーストが用いられる。

[古川俊之]

構造

心電計の標準形は1誘導ずつ記録する1チャンネル直記式であるが、3誘導を同時記録する多チャンネル心電計も増えている。誘導とは、電位差を計測する二つの点の組合せをいい、標準的には12組と決められている(12誘導)。

 心電計の構成は、高入力インピーダンスの差動形前置増幅器、差動形主増幅器、安定化電源、それに誘導電極の組合せを選択するセレクタースイッチ、1ミリボルトの校正用電源が付属している。記録装置はおもに直記式が用いられる。これは、増幅された心電信号を可動コイル形ペンモーターに結び、電気発熱体のペンを動かして特殊な感熱記録紙に波形を描くものである。記録紙には、普通4センチメートル幅の1ミリメートル方眼紙が印刷されており、波形の振幅10ミリメートルが1ミリボルトに相当するように調整されている。記録紙の長尺方向は時間軸で、紙送り速度は毎秒25ミリメートル(1ミリメートルは0.04秒にあたる)となっている。記録装置にはインク供給形ペンレコーダーインクジェット(インク噴射)レコーダーのほか、研究用や長時間記録用として磁気テープレコーダーが用いられる。また、患者モニター(監視)用としてブラウン管表示が多用されている。

[古川俊之]

誘導法

心電図計測には、まず被検者の両手首および左足首に電極を装着して、その電位差を記録するが、誘導法には次の三つがある。

(1)標準双極子誘導 三つの電極間の電位差を測るものであり、通常よくみかける心電図はこれによっている。

(2)単極肢誘導 三つの電極に5~100キロオームの抵抗を挿入して1か所の基準点を設け、これと電極間の電位差を測るものである。

(3)単極胸部誘導 設定された基準点と、胸壁面上にあるあらかじめ決められている点に装着した電極との間の電位差を測定するものである。

 特殊な誘導法としては、食道内カテーテルを用いて心臓の右心室壁に近い場所の電位を測る方法や、心臓カテーテルを用いて心臓内壁からの電位を誘導し、心臓の刺激伝導系であるヒス束(そく)という部位の心電波形も観察する方法などがある。

[古川俊之]

特殊な心電計

特殊な心電計としては次のようなものがあげられる。

(1)ベクトル心電計 心起電力を三次元ベクトルとして測定記録する。

(2)長時間記録心電計 不整脈や心臓虚血の発生を監視するためのもので、低速の磁気テープ記録装置に24時間の心電図を記録し、専用の解析装置で異常波形を検出する。

(3)胎児心電図 妊婦の腹壁上に設けた一定の誘導点を用い、加算平均法によって母体の心電信号を消去して微弱な胎児心電図を観察する。

(4)体表面電位計 胸壁周囲に100個程度の電極を装置し、心臓の活動電位の二次元パターンを観察する。

(5)自動心電計 誘導切換えや計測の開始・終了、心電図編集などの操作を電子的に制御したもので、省力のみならず、心電図のコンピュータ処理の端末装置としても使われ、最近ではマイクロコンピュータによって自動診断機能を内蔵したものもある。

[古川俊之]

安全性

心電計に予期していない短絡電流が流れると、被検者や取扱者に危険を及ぼすおそれがある。とくに最近では、心臓カテーテルやヒス束心電計などのように心臓内部に直接電極を入れる場合があり、このときには、10ミリアンペア程度の電流で心停止をおこす危険がある。また、不整脈の治療に静脈を介する心臓ペースメーカーを使う場合にも、同様の事故が予想される。こうしたことから、心電計には電源の絶縁、入力回路のフローティング(入力回路を装置本体から絶縁すること)、接地方式といった安全構造に関する厳重な規制(国際電気標準規格、日本産業規格〈JIS(ジス)〉など)があるほか、安全管理、保守、点検全般にわたっての細かい取決めがある。

[古川俊之]

『小野哲章、菊地真編集『ME早わかりQ&A 1――心電計・心電図モニタ・テレメータ』(1987・南江堂)』『小沢友紀雄編『患者のためのやさしい心電図の見方』(2002・医薬ジャーナル社)』

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百科事典マイペディア 「心電計」の意味・わかりやすい解説

心電計【しんでんけい】

心臓の起電力を体表面から誘導し,増幅して心電図を描かせる装置。アイントホーフェンが1903年に電流計を用いて心臓の活動電流を記録したのが心電計の基礎であるが,今日ではこの電流心電計はほとんど用いられず,活動電位を増幅記録する電圧心電計がもっぱら用いられる。記録装置により直記式と写真式に分かれるが,多くは直記式である。その他,連続的観察用として,手術時や心臓カテーテル法実施時などに,陰極線オシログラフを利用した心電計などが用いられる。
→関連項目メディカルエレクトロニクス

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