内科学 第10版 「先天性貧血」の解説
先天性貧血(造血不全)
概念
先天性造血不全症候群は,造血細胞の分化・増殖が先天的に障害され,血球減少をきたす疾患の総称である.これらの疾患の多くは,骨髄不全のほか,先天性奇形,発癌素因を共有している.造血不全症に伴う先天性貧血のわが国における発症数は,最も頻度が高いDiamond-Blackfan貧血で年間10~14例,次のFanconi貧血で5例前後である.
a.Fanconi貧血概念・症状
染色体の不安定性を背景に,①進行性汎血球減少,②身体奇形,③発癌素因を特徴とする血液疾患である.Fanconi貧血の15~20%に骨髄異形成症候群や白血病などの血液腫瘍の,5~10%に固型癌の合併が報告されている.遺伝形式は,ほとんどが常染色体性劣性である.
診断
本疾患の表現型は多様で,汎血球減少症のみで奇形を伴わない場合もある.したがって臨床症状のみでは,本疾患を確定診断することは不可能である.小児や青年期に発症した再生不良性貧血患者に対しては,全例に末梢血リンパ球を用いてマイトマイシン CやジェボキシブタンなどのDNA架橋剤を添加した染色体断裂試験を行い,本疾患を除外する必要がある.しかし,リンパ球でreversionを起こした細胞が増殖する(体細胞モザイク)ために偽陰性例や判定困難例が生ずることがあるので,注意が必要である.
病因
Fanconi貧血は遺伝的に多様な疾患であり,現在までにFANCAなどの15の責任遺伝子が同定されている.遺伝子産物は3つのグループに分類され,共通の分子ネットワークにおいて働き,DNAの修復を行う(図14-9-8).本疾患では,遺伝子変異によりDNA修復障害が生じ,骨髄不全がもたらされると考えられる.
治療
現時点では,造血幹細胞移植のみが唯一治癒が期待できる治療法である.通常の移植前処置で行われる放射線照射や大量シクロホスファミドの投与では,移植関連毒性が強くでる.このため,少量のシクロホスファミドと局所放射線照射の併用が標準的な前治療法として用いられてきたが,治療成績は不十分であった.しかし,近年フルダラビンを用いた移植前処置の開発により,非血縁ドナーからの移植を含めて治療成績は著しく向上した.
b.Diamond-Blackfan貧血
概念・症状
リボソームの機能不全を背景に,①乳児期に発症する赤芽球癆,②身体奇形,③骨髄異形成症候群や白血病への移行や固型癌の合併を特徴とする血液疾患である.骨髄は正形成であるが赤血球系細胞のみが著減し,末梢血では網赤血球が減少し,大球性正色素性貧血を呈する.約40%の症例でさまざまな奇形を合併することが知られている.大頭,小頭などの頭部,顔部の異常が最も多く,上肢,眼,泌尿生殖器系,心臓の異常や低身長がみられる.ほとんどが散発例であるが,約10~20%の症例では家族歴があり,おもに常染色体性優性の形式をとる.
診断
本疾患の表現型は多様で,家族内に発端者と同一の遺伝子異常をもつ貧血や身体奇形を伴わない軽症例も存在する.したがって,臨床像のみで本疾患を確定診断するのは不可能である.遺伝子変異が確認されれば診断は確定するが,50%以上の患者では,責任遺伝子が同定されていない.
病因
約半数の患者にRPS19などのリボソーム蛋白遺伝子のヘテロ変異が同定されている.貧血の起こる仕組みについてはまだ完全に理解されていないが,リボソームの機能障害の結果,p53の活性化が起こることがDBAの中心的な病因と考えられている.
治療
副腎皮質ステロイド療法は約80%の症例で反応が認められる.しかし,ステロイド不応性の輸血依存例は,造血幹細胞移植の適応となる.わが国の移植成績は海外に比して良好である.[伊藤悦朗]
■文献
小澤敬也:特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド(平成22年度改訂版).厚生労働省科学研究補助金難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班 2011.http://www.jichi.ac.jp/zoketsushogaihan/download.html.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報