改訂新版 世界大百科事典 「光励起」の意味・わかりやすい解説
光励起 (ひかりれいき)
電磁波を吸収させることによって,分子(原子,イオン,準粒子なども含める)を,特定のエネルギー状態に励起することをいう。狭義には,ゼーマン副準位の分布数を,光を照射して変化させる方法(光ポンピング)を指す。また広い意味では,非線形散乱,光混合,光パラメトリック効果などの過程において,主たる入射光を励起光という。
二つのエネルギー準位W1,W2に共鳴する電磁波ℏω=W2-W1によって(ℏはプランク定数を2πで割ったもの,ωは角振動数),それぞれの分布数N1,N2を有効に変化させるためには,単位時間当りに吸収される光子数が,緩和によって元の状態にもどる分子数より大きくなくてはならない。すなわち入射光のパワーをP,吸収係数をα,緩和時間をτとしたとき,
αP/ℏω(N2-N1)/τ ……(1)
の関係が満たされる必要がある。電気双極子遷移の場合には上の関係は,
μ12E/ℏ1/τ
と書き直せる。ここでμ12は双極子モーメントの行列要素,Eは光の電場の強さである。物質と電磁波がコヒーレントに相互作用をしている場合には,
μ12E⊿t/ℏ=π/2 ……(2)
の条件を満たすとき,物質に誘起される分極は最大になる。⊿tは相互作用の持続時間である。また,
μ12E⊿t/ℏ=π ……(3)
のときには,N1とN2の大きさが逆転する。(2)や(3)を満足するようなEと⊿tをもった光パルスをπ/2パルス,πパルスと呼ぶ。レーザーにおいて反転分布をつくるもっとも一般的な方法は光励起である。
執筆者:清水 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報