多粒子の集団における粒子の運動形態の一つで、一粒子的なふるまいを示すものをいう。金属中の伝導電子や液体のような多数の粒子(電子または分子)の集団においては、粒子間に力が働くため、個々の粒子は独立に運動できない。そこに生じる運動は、多数の粒子の絡み合った複雑なものになる。しかし、温度が十分低いときは、粒子系の状態は全体としてもっともエネルギーの低い量子状態(基底状態)に近く、基底状態からの小さな外れは比較的単純な見方で理解できる。すなわち、1個の粒子が基底状態から外れて動きだすと、その影響で周囲の粒子の状態に変化が生じ、中心の粒子が動くと周囲の変化もそれについて移動する。このような運動は一見、1粒子の運動のようにみえるので、準粒子とよばれる。物体が水中を動くとき、周りの水は物体に道をあけるように流れる。準粒子は、周囲に水の流れを伴って動く物体のようなもの、と思えばよい。
準粒子の運動は、周りに多数の粒子の運動を伴っているため、単純な1粒子の運動とは異なる性質をもつ。たとえば、準粒子の見かけ上の質量や準粒子間に働く力は、元の粒子の質量や力と異なる。低温では、励起される準粒子の数が少ないので、各準粒子は独立に運動するとみてよい。金属電子の場合、電子はクーロン力により互いに強く反発しあう。このため、各電子の周囲には他の電子の入り込めない領域が生じる。周りにこのような領域を伴って運動する電子が、この場合の準粒子である。準粒子は独立に運動するため、金属電子は比熱などの性質について、相互作用のない粒子系に似たふるまいを示す。
[長岡洋介]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…相互作用している多数の粒子よりなる巨視的物体の励起状態は,ある種の粒子の集りとみなすことができるが,この粒子を素励起という。粒子といっても真空中の粒子とは異なり,相互作用の効果をとり入れたいわば仮想的な粒子であって,この意味で準粒子quasiparticleとも呼ばれる。素励起のもつ運動量qとエネルギーwの間に一定の分散関係w=w(q)があり,通常の粒子と同様,フェルミ統計,あるいはボース統計に従い量子化される。…
※「準粒子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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