全身性強皮症(読み)ゼンシンセイキョウヒショウ

デジタル大辞泉 「全身性強皮症」の意味・読み・例文・類語

ぜんしんせい‐きょうひしょう〔‐キヤウヒシヤウ〕【全身性強皮症】

全身性硬化症

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内科学 第10版 「全身性強皮症」の解説

全身性強皮症(リウマチ性疾患)

定義・概念
 全身性強皮症は,皮膚真皮の,コラーゲン主体の結合組織増加(線維化)で特徴づけられる.全身性とは内臓合併症の存在を意味する.皮膚硬化は,指趾から近位に及ぶが,進行しない例も多い.線維化は肺・消化管・血管壁にも生じ,臓器機能と血行が障害される全身疾患であるが,合併症の程度もさまざまで,軽症者のほうが多い.
分類
 皮膚硬化の範囲によって,肘より近位に及ぶ“びまん性”,遠位にとどまる“限局型”の2病型に分ける(表10-5-1).病型は,内臓病変の種類と血清自己抗体の差に相関する.皮下石灰化(calcinosis),Raynaud症状,食道蠕動低下(esophageal dysmotility),皮膚の毛細血管拡張(telangiectasia)があれば,指のみの皮膚硬化(sclerodactyly)でも強皮症と考え,頭文字をとってCREST症候群ともよぶ.定義は厳密でなく,限局型強皮症の同義語とされる.内臓病変と自己抗体が強皮症と一致し,皮膚硬化を欠くとき,SSc sine sclerodermaとよび(全身性強皮症の5〜10%),内臓病態の同等性から限局型強皮症に含める. 抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl70抗体)は,びまん性強皮症の約30%に,抗セントロメア抗体は限局型強皮症の30〜80%(文献により差がある)に出現し,陽性なら特異性がある.抗RNP抗体もしばしば陽性となるが,全身性エリテマトーデス,混合性結合組織病にもみられる.びまん性強皮症には抗RNAポリメラーゼ抗体(抗核小体抗体の一部)もみられる.以上の自己抗体は,1人の患者にいずれか1つが出現する傾向がある.
原因・病因
 膠原病諸疾患に共通する疾患感受性遺伝子も知られているが,強皮症の家族発症はまれであり,一卵性双生児の発症一致率5%とされる.一方,強皮症発症率が一般頻度の20倍,全発症例に抗トポイソメラーゼI抗体陽性という北米部族がある.結合組織成長因子(CTGF)やインターフェロン調節因子などの遺伝子多型,特定のHLAが,強皮症または自己抗体と相関する,との諸報告もある.職業的珪土暴露者に強皮症が多発するとの集計は,外因の寄与を示唆する.
疫学
 男:女の比は,1:3〜9,好発年齢は30〜50歳で,小児発症はまれである.日本で厚労省医療助成の申請者(2011年)は,約1.5万人である.有病率は,日本・ヨーロッパよりも米国で,より高い.
病理・病態生理
 真皮・内臓間質の線維化,毛細血管〜小ないし細動脈の増殖性閉塞病変が特徴である.血管内皮細胞傷害,血管周囲の単核球浸潤がみられるが誘因は不明である.一般に血管炎はなく,免疫複合体性障害とも異なる.真皮の浮腫は病初期にみられる.線維化は活性化線維芽細胞からのコラーゲン,フィブロネクチン,グリコサミノグリカン増加による.線維芽細胞の活性化に関与するものとして,形質転換増殖因子(TGF-β),結合組織成長因子(CTGF),血小板由来増殖因子PDGF),血管内皮細胞から過剰産生されたエンドセリン-Ⅰなど複合要因が推定されているが,病態生理は未確定である.
臨床症状
1)自覚症状:
Raynaud現象,指の皮膚硬化,関節の疼痛,こわばりが高頻度である.皮膚瘙痒(初期に多い),開口制限,労作時息切れ,乾性咳,嚥下困難感,胸やけ,便秘もみられる.皮膚硬化は易疲労感を,肺機能低下と消化管蠕動低下は体重減少を招く.肺高血圧症による右心不全症状もありうる.
2)皮膚所見:
硬化は必ず指を含み,さまざまな程度に近位に及び,拘縮は深刻な機能低下をもたらす.初期に浮腫性肥厚もみられる.びまん性強皮症では,週〜月単位で体幹に及ぶ進行例もあるが,年単位で遠位側に向かって軟化に転じることが多い.硬化範囲は予後と相関しない.拡大鏡で見た爪郭部の毛細血管異常,爪上皮の出血点は早期診断に役立つ.全身の色素沈着と脱失(poikiloderma)もみられる.硬化が乏しくても強皮症を示唆する所見は,指先の虚血性陥凹・萎縮・先細り,血流障害による指先の壊死・皮膚潰瘍,皮下石灰化(砂粒〜小豆大),肉眼的な毛細血管拡張(指・舌・口唇に紅色斑状のもの,顔面・体幹にくも状血管腫など)である.
3)Raynaud現象:
強皮症の90%にみられ,おもに手に寒冷やストレスで誘発される.小動脈の一過性攣縮であり,典型像は三相変化(虚血性蒼白,還元Hbの紫,再灌流で赤)を示す.エンドセリン,交感神経緊張など複合要因による.サーモグラフィは循環不全範囲の評価に役立つ.高度の循環不全でも,橈骨動脈拍動はよく触れる特徴がある.
4)骨関節:
多関節痛とこわばりは初期に高率,ときに慢性疼痛がある.X線上骨破壊はないが,軽度の軟骨減少はある.虚血性に指節骨が融解すると,無痛性に指が短縮する.
5)消化管:
2病型(表10-5-1)とも,粘膜下層と平滑筋層の線維化による蠕動低下が,食道に早期かつ高率に生じ(嚥下障害,逆流性食道炎による胸やけ),直腸にも多い(便秘).皮膚硬化が乏しい例でも,食道蠕動低下は強皮症を示唆する(抗コリン薬なしに希釈バリウムを嚥下し,10秒以後も残存すれば異常).進行例で食道拡張,または逆流性食道炎の反復で下部の瘢痕狭窄も起こす.蠕動低下は,胃から大腸までにありうる(図10-5-1).小腸で最も重大であり,在宅中心静脈栄養を要することもある.腹部膨満,腸内細菌の異常繁殖と吸収不良による下痢・脂肪便・体重減少,変動性の偽性腸管閉塞(intestinal pseudoobstruction),まれに胞状腸気腫症(pneumatosis cystoides intes­tinalis),限局型強皮症に生じる小腸・大腸粘膜の毛細血管拡張(Rendu-Osler-Weber型)から下血がありうる.
6)肺:
肺線維症を主体とする間質性肺炎は,強皮症の過半数にみられる.早期進行例は,びまん性強皮症に多い.組織型は,usual interstitial pneumoniaまたはnonspecific interstitial pneumoniaである.両側肺底部に始まり,単純X線で網状陰影,横隔膜上昇(図10-5-2),CTで小輪状陰影・蜂巣肺をみる.初期変化はCTで検出され,背下部の聴診音fine cracklesも早期診断に役立つ.拡散能DLCO低下は病変とよく相関する.しばしば慢性呼吸不全に至り,強皮症で最高頻度の予後不良因子である.ときに致命的な亜急性進行例がある.ほかの肺合併症として,胸膜炎はまれでない.大量胸水は一部の重症例にみられる.
7)肺高血圧症:
おもに肺動脈末梢の肥厚狭窄による“肺動脈性肺高血圧症”であり,明らかに限局型強皮症に多い.一部は,血栓性肺高血圧症である.肺線維症が肺高血圧を招くかどうか賛否両論あるが,低酸素血症による肺高血圧症はありうる.肺動脈性肺高血圧症の多くは軽症にとどまるが,一部の患者で致命的な圧上昇,右心不全,不整脈死を招く.
 左心不全による二次的な肺動脈圧上昇を除外したうえで,右心カテーテル計測の平均肺動脈圧≧25 mmHgで診断する.ドプラ心臓超音波検査(三尖弁逆流の速度から換算した房室圧較差+仮定右房圧5 mmHg = 推定収縮期右室圧≧40 mmHg)で判定されることも多いが,正確な評価法でなく,経時的モニターに適する.わが国の集計で,肺高血圧症の頻度は,混合性結合組織病 5〜7%,強皮症 2.6%,全身性エリテマトーデス0.9%とされる.海外では限局型強皮症において,より高い合併率が集計され,疫学差がみられる.
8)心:
心外膜炎は高率だが,多くは軽症である.高度の心膜液貯留は,予後不良例にみる.まれに心タンポナーデ,線維性収縮による駆出障害を起こす.心筋の線維化による不整脈の多くは軽症であるが,まれに高度房室ブロック,心室頻拍がある.
9)腎:
強皮症腎は,強皮症の5〜10%に生じるとの海外集計があるが,日本ではこれより低頻度とみられている.ほとんどが,びまん性強皮症に生じ,発症5年以内に多い.①強皮症腎クリーゼ(scleroderma renal crisis)は,腎の葉間・弓状・小動脈の内膜肥厚性の狭窄による急性尿細管壊死であり,高血圧の急発症,血清Cr上昇ないし乏尿性腎不全,血漿レニン活性上昇を示す.アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬による徹底した降圧治療で軽快する例から,維持透析,死亡例まで程度はさまざまである.②血栓性微小血管障害症(thrombotic microangio­pathy)は,腎クリーゼと区別され,週単位で進む血小板減少と,溶血によるハプトグロビン低下が診断根拠となる.正常血圧腎クリーゼという用語で記載された病態だが,進行すれば腎不全と高血圧を示す.血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic throm­bocytopenic purpura:TTP)と連続した病態概念であり,早期の新鮮凍結血漿による血漿交換が救命的な治療法であるが,腎クリーゼと共通してACE阻害薬も適応と考えられている. ①と②の病態を,明確に区分できない症例もある.
検査成績
 抗核抗体は,陽性率90%,症状に先行するので,皮膚硬化があいまいな例での診断に有用である.抗セントロメア抗体または抗トポイソメラーゼⅠ(Scl70)抗体が陽性なら,特異診断と病型分類に役立つ(表10-5-1).強皮症は,基本的病態の皮膚硬化・慢性肺線維症・蠕動低下が重度でも,血算,血液生化学異常はなく,CRP陰性,赤沈正常である.
 特殊な臓器障害を伴うとデータ異常をみる:強皮症腎で血清Cr上昇,微小血管障害症で血小板減少とハプトグロビン低下,強皮症特有の軽症筋炎でCK上昇.肺高血圧症におけるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)上昇,血清尿酸値上昇は心負荷の指標になる. 呼吸機能・心臓超音波検査,胸・腹部X線,心電図は,一般的な評価に有用である.
診断(表10-5-2)
 手指を含む皮膚硬化に,抗核抗体を伴えば,診断できる.皮膚硬化があいまいでも,Raynaud現象,前述の臓器所見(肺,消化管)で診断される.皮膚生検の真皮コラーゲン増加で証明される場合もある.強皮症の病型,全身性エリテマトーデスとの重複症候群,混合性結合組織病をそれぞれ区別することが,予後予測と治療方針に影響する.
鑑別診断
 指硬化がありうるのは,骨髄移植に伴う移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD),1型糖尿病児童,振動病,化学物質による皮膚硬化であるが,病歴・職歴から判断できる. 局所性強皮症(localized scleroderma)は,斑状・びまん性のmorpheaと,線状のものがあるが,分布が強皮症とまったく異なる.糖尿病性浮腫性硬化症(diabetic scleroderma)は首・上背部・肩に分布し,指硬化を示さない.好酸球性筋膜炎(eosinophilic fasciitis)は四肢の硬性浮腫を呈するが,指趾と顔に硬化はなく,Raynaud現象もない.
合併症
 強皮症そのものでない併発症を列挙する.全身性エリテマトーデス,多発性筋炎,皮膚筋炎と合併すれば,膠原病重複症候群と称し,それぞれの病態に応じて治療する.ほかに,偶然でなく強皮症に併発する疾患は,Sjögren症候群,原発性胆汁性肝硬変,橋本病,顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis)がある.顕微鏡的多発血管炎は,炎症反応を伴い,急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を示し,好中球抗細胞質抗体(MPO-ANCA)の陽性率が高いので,腎クリーゼとの鑑別は容易である.ステロイド治療の絶対適応であることも,腎クリーゼとまったく異なる.
経過・予後
 肺・腎・消化管病態は,皮膚硬化の発症から4〜5年以内に生じる.この期間に出現しなければ遅発はほぼなく,予後は良好である.強皮症は軽症者のほうが多い.ただし,肺動脈性肺高血圧症は,遅発する傾向がある.また,内臓障害はなくても,慢性の末梢循環不全に悩まされる症例はまれでない.高度の肺動脈性肺高血圧症,高度の肺線維症では,在宅酸素療法を要し,生命予後不良である.抗トポイソメラーゼⅠ抗体陽性は,肺線維症の重症化と相関する.強皮症腎のために維持透析,高度の蠕動低下のために静脈栄養が必要になれば,機能予後は不良である.
治療
 皮膚硬化に対する特効薬は,まだない.急速進行例には,ステロイド治療が有効なことがある.進行したびまん性硬化に対しても,ステロイド薬+シクロホスファミド+血漿浄化(二重膜濾過)による明らかな改善例がみられるが,改善の範囲と程度は部分的であり,再び硬化することが多いため,標準治療とみなされていない.年単位で自然軟化が期待できることは前述した. 間質性肺炎の急性・亜急性増悪には,シクロホスファミド(経口投与の効果が確立されている)とステロイド薬の併用治療が有効であるが,多くの症例は,免疫抑制治療の適応がない慢性肺線維症を示す. 強皮症腎クリーゼに対する,ACE阻害薬の有効性は確立している.血栓性微小血管障害症に対し,早期(腎障害が顕在化する前の血算異常の時期)に血漿交換開始が必要なことは,認識されつつある. 肺高血圧症には,エンドセリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬,プロスタグランジンI2(PGI2)薬の持続静注療法(専門的手技を要する)が有効である.これらは近年普及した血管拡張薬であり,生命予後を明らかに改善した.PGI2徐放薬にも有効性がある.強皮症の肺動脈性肺高血圧症に対する,ステロイド薬+シクロホスファミド治療の有効性は,全身性エリテマトーデスに比べると明確でない.血栓性肺高血圧症には,抗凝固治療(ワルファリン)を行う.いずれの肺高血圧症でも,重症例における酸素療法と心不全の一般治療は共通である.
 逆流性食道炎には,プロトンポンプ阻害薬が有効である.蠕動低下に対し,メトクロプラミド,エリスロマイシンがある程度有効なことがある.受容体作用で即効性に胃・小腸・大腸の蠕動を促進するので食前に内服する. Raynaud現象に,現行の血管拡張薬で明確な改善効果はない.末梢循環不全に,プロスタグランジンE1静注(または保険適応外のPGI2徐放薬)は用いられ,皮膚潰瘍・壊死には徹底した処置(洗浄,被覆)を行う.交感神経ブロックを併用することもある.手足のみでなく全身の保温が非常に重要である.指先に傷をつくらない注意もいる.[三森明夫]
■文献
Gabrielli A, Avvedimento EV, et al: Scleroderma. N Engl J Med, 360: 1989-2003, 2009.
竹原和彦,佐藤伸一編:強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針2007年改訂版.

全身性強皮症(膠原病にみられる肺病変)

(3)全身性強皮症(systemic scleroderma:SSc)
 SScは皮膚や肺,消化管などの内臓諸臓器の線維化と閉塞性血管病変を特徴とする.SScに伴う肺病変として,間質性肺炎と肺高血圧が重要である.皮膚硬化の範囲によりSScはびまん型(抗Scl-70抗体陽性)と限局型(抗セントロメア抗体陽性)に分類され,間質性肺炎はびまん型でより高頻度にみられるが,肺高血圧の頻度は同程度と報告されている.SScに伴う間質性肺炎の組織学的検討ではNSIPが約70%と主体をなす.Scl-70抗体の存在例は間質性肺炎の存在と重症化のリスク因子である.間質性肺炎の病勢は悪化していないにもかかわらず,労作時の息切れが増悪するときは肺高血圧を積極的に疑う.肺高血圧の発症は間質の線維化の結果というより,肺血管病変として発症することが多い.食道病変合併例では高率に誤嚥性肺炎を併発してくる.皮膚硬化を欠くSSc sine sclerodermaという症例も存在する.[千田金吾]

全身性強皮症(膠原病および類縁疾患)

(1)全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)
 全身性強皮症(SSc)の消化管病変は約50~80%と高頻度に認められる.その病態は固有筋層における筋組織の萎縮や変性および結合組織や膠原線維の増生による消化管の拡張と蠕動の低下による.全消化管に起こりうるが特に食道で多く,ついで小腸,大腸,胃の順である.食道病変では胸やけ,悪心・嘔吐,嚥下障害,つかえ感などの自覚症状がみられ,逆流性食道炎や食道潰瘍を伴い反復する症例では食道狭窄をきたすことがある(図8-11-1).小腸および大腸病変では腸管蠕動の低下により腸管拡張や内容物の停滞による偽性腸閉塞,また便秘や下痢などの便通異常などがみられることがある.[安藤貴文・後藤秀実]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「全身性強皮症」の解説

全身性強皮症(SSc)
ぜんしんせいきょうひしょう(SSc)
Systemic scleroderma (SSc)
(皮膚の病気)

どんな病気か

 強皮症のうち、内臓病変を伴う全身性の病型です。皮膚が硬く弾力がなくなり、つまみ上げられなくなる状態を「皮膚硬化」といいます。全身性強皮症は皮膚の硬化を主症状とし、消化管や肺などの内臓臓器の硬化を伴う膠原病(こうげんびょう)です。

 従来は病名に進行性という言葉が入っていましたが、必ずしも進行するとは限らず、自然に軽快することもあるため、今は除かれました。クレスト症候群は本症の一病型です。

原因は何か

 自己免疫現象が関係するようですが、真の原因は不明です。まれにシリカ、塩化ビニール、有機溶媒、エポキシレジンなどが原因の職業性強皮症があります。

症状の現れ方

 発病に数年先行して、指先が寒冷刺激で蒼白となるレイノー症状が現れることが多いようです。発症初期は手指の持続性の浮腫(ふしゅ)が主体ですが、やがて硬化期に入り、皮膚が徐々に硬くつまみ上げられないようになり、皮膚のしわは少なく、光沢をもつようになります。この皮膚硬化の範囲は病型により範囲、程度が異なります。(ひじ)(ひざ)よりも末梢に限られているものを限局型、近位に広がるものを汎発型と分類します。

 時間がたつと皮膚の硬化は完成し、徐々に萎縮が皮下組織まで進行して萎縮(いしゅく)期に至ります。内臓病変では肺線維症(はいせんいしょう)などの呼吸器病変、逆流性食道炎などの消化管病変、不整脈などの心臓病変、肺高血圧、腎性高血圧などを合併します。

検査と診断

 皮膚生検による組織検査が重要です。膠原線維の増生、変性、均質化とムチン(粘液蛋白)の沈着、汗腺などの皮膚付属器の萎縮を認めます。臨床検査では抗核抗体陽性、抗トポイソメラーゼⅠ(scl70)抗体、もしくは抗セントロメア抗体が陽性になります。レイノー症状の強い場合は抗RNP抗体が陽性となります。赤血球沈降速度の亢進、高ガンマグロブリン血症もよく伴います。

 皮膚硬化が広範な汎発型ではscl70抗体が陽性、皮膚硬化が末梢に限られている限局型では抗セントロメア抗体が陽性となります。心電図、胸部X線、食道造影、内視鏡などの検査も必要となります。肺がん胃がんなどの悪性腫瘍の合併が健康な人より多いため、注意が必要です。

治療の方法

 軽症の場合はビタミンEなどの末梢循環改善薬、重症例や進行性の場合はステロイド薬、免疫抑制薬などが用いられますが、決定的な治療法はありません。温浴やマッサージなどの理学療法も大切です。

 内臓病変がある場合はそれぞれ病変に応じた治療をします。

病気に気づいたらどうする

 皮膚科専門医またはリウマチ膠原病専門医を受診します。日常生活では寒冷刺激、感染症などを避け、病気の進行を食い止めるようにします。自然に症状の進行が止まったり、改善する場合も少なくないので、日常生活で悪化させない工夫が大切です。

関連項目

 膠原病

衛藤 光

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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