腎機能不全ともいい、腎機能が高度に障害され、生体の内部環境を正常に維持することが困難になった状態をいう。腎実質の障害による腎性腎不全のほか、腎循環不全による腎前性、尿路の閉塞(へいそく)による腎後性の腎不全がある。一般に、その発症によって急性と慢性に分けられる。
[加藤暎一]
症状としては、1日400cc以下の尿量(乏尿)が数日間続いたときに急性腎不全と診断される。原因としてもっとも多いのは手術後であり、大やけど、大きな創傷、薬物中毒、日射病などがこれに続く。筋肉の挫滅(ざめつ)によって生じたミオグロビンが尿細管腔(くう)を閉塞することが一つの原因であり、低血圧(最高60ミリメートル水銀柱以下)が数時間続き、腎の血行障害によって腎組織が壊死(えし)に陥ることがいま一つの原因である。
初めは乏尿のほかは無症状であるが、のちには電解質や尿素窒素が排出されないため日を追って尿素症状としての悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、皮膚のかゆみ、興奮、傾眠などがみられる。また乏尿の結果、浮腫(ふしゅ)や心不全由来の肺うっ血による呼吸困難が現れるのは数日後である。
治療は、食事を主体とする姑息(こそく)的療法と、人工腎臓か腹膜灌流(かんりゅう)を行う方法に分かれる。前者は、ほとんど絶食して渇をいやす程度のわずかな量の水を与え、点滴で500cc程度のブドウ糖を入れ、尿が出るのを待つが、近年では透析センターの普及もあり、3日無尿が続けば、予防的に透析療法を行うべきである。
[加藤暎一]
慢性腎不全は腎機能がしだいに低下し、血中尿素窒素が上昇し(正常値20ミリ%)、血清電解質の異常(高カリウム血症など)をきたした状態をいう。原病のうちでもっとも多いのは慢性腎炎で、そのほか高血圧、嚢胞(のうほう)腎、糖尿病性腎症、痛風腎なども末期になればこの状態になる。さらに進行すれば、尿毒症をおこす。
自覚症状としては多尿と口渇があり、ときに全身倦怠(けんたい)、食欲不振、悪心、嘔吐、皮膚のかゆみなどがあるが、自覚症状を伴わないこともある。他覚的には尿に中等度または軽度のタンパク尿と顕微鏡的血尿があり、血圧は正常または軽度に上昇する。腎機能は著しく低下し、糸球体濾過(ろか)値30cc/分以下、腎血漿(けっしょう)流量125cc/分以下、PSP(フェノールスルホンフタレイン)15分値10%以下、濃縮力最高尿比重1.020以下である。
治療は姑息的療法と透析療法に分かれる。前者は、摂取するタンパク質を制限することによって窒素平衡を維持させようとするもので、たとえばタンパク質1日25グラムに鶏卵1個を加える食事によって血中尿素窒素が50ミリ%以下に保てるならば、これを持続する。
後者は、人工腎臓による血液透析、または腹膜灌流法によって腎臓の働きを代償しようとするものである。近年は社会復帰の効率がよい持続性外来腹膜灌流法(CAPD)が普及しつつある。さらに透析療法では、食事、摂水、社会活動にもやはり制限があるので、患者の急速な増加とともに、腎移植を推進させるよう努力が続けられている。
[加藤暎一]
腎臓の機能のうち,糸球体のろ(濾)過機能の低下によって,生体内のホメオスタシスが維持できなくなった状態をいう。腎不全は,急速に発症し,回復の可能性のある急性腎不全と,非可逆的に進行する慢性腎不全に分けられる。
急激に発症し,数時間から数日の間に腎不全になるもので,90%以上は腎臓以外の誘因によって発生する。急性腎不全は,脱水や大量失血,心不全やショックから,腎臓への血流そのものが減少することによって起こる腎前性腎不全,腎盂(じんう)以下の尿路の閉塞によって,糸球体ろ過量が低下する腎後性腎不全,腎臓そのものに器質的変化があって起こる腎性腎不全に大別される。このうち,前2者は腎臓以外に原因があって起こったものであり,腎臓自身が機能を失っているわけではないので,病因が適切に取り除かれれば,速やかに正常に復する。しかし腎性腎不全は腎臓の器質的変化を伴うので,原因疾患がなくなっても改善には時間がかかる。このため,腎性腎不全は狭義の急性腎不全とされ,単に急性腎不全といえば,これを指すことが多くなっている。
腎性腎不全は急性腎実質性腎不全ともいわれ,種々の組織学的変化を伴うものがあるが,急性の尿細管壊死を伴うものが最も多い。尿細管の壊死には,水銀やヒ素などの重金属やエチレングリコールなどの有機溶剤を含む毒性物質による場合と,腎臓の虚血による場合とがある。後者は一過性のものなら,腎前性腎不全にとどまるが,原疾患が難治であったり,治療が遅れると,尿細管壊死に移行する。
(1)症状 急性腎不全の症状は,まず乏尿をもって始まり,多くの例では1日の尿量が400ml以下になる。尿にはタンパク尿,血尿がみられ,血中尿素窒素は増加する。尿の排出機能の低下から,尿毒症の症状を呈する。このような症状を示す時期を〈乏尿期〉というが,ふつう1~2週間,長くても約1ヵ月で,症状は改善に向かう。乏尿期の次は,〈利尿期〉といい,尿細管の壊死は自然に回復して,尿量も増え,さらに腎臓機能が改善を続けると〈回復期〉に達する。ふつう,発病から回復期に入って安定な状態に達するまで,数ヵ月から数年を要する。
(2)治療と予後 乏尿期には水,ナトリウム,カリウム,タンパク質を制限し,高カロリー食を中心とした食事療法を行うが,ふつうこの程度では尿毒症をコントロールできないので,血中尿素窒素が60mg/dl以上の場合は透析療法を行う。透析によって身体の状況は急速に改善する。一般に原疾患のコントロールが困難なものの場合は予後が悪いが,それ以外の予後は比較的良好である。なお,敗血症などの重症感染症や消化管出血を合併すると,重篤な状態となるので注意を要する。
機能をもったネフロンが非可逆的に減少し,それによって糸球体ろ過値が低下して,種々の障害を生じる状態をいう。ネフロンの減少による腎臓機能の低下は連続的なため,どこから慢性腎不全というかについては明確な線が引きにくい。ふつう次のような段階に分類される。(1)第1期 腎臓の予備力低下。ネフロンの50%近くまで喪失しているが,血液には異常がない。(2)第2期 腎機能不全。糸球体ろ過値は正常の25~50%。血液や腎機能に異常がでてくるが,日常生活に支障はない。ただし,脱水,感染,手術などのストレスが加わると代償不全に陥る。(3)第3期 腎不全。糸球体ろ過値は正常の5~25%。高窒素血症,アシドーシス,貧血などの症状を示す。身体へのストレスが加わると尿毒症に移行する。(4)第4期 尿毒症。糸球体ろ過値は正常の5%以下。高血圧や浮腫,意識障害などの尿毒症症状を示し,放置すれば死亡する。
以上のような腎臓機能障害のうち,一般的には第3期を慢性腎不全としている。すべての慢性の腎実質性疾患が病因となりうるが,慢性糸球体腎炎などの原発性糸球体病変によるものが全体の60~70%を占める。治療は腎臓機能の低下の程度や現れる症状によって異なるが,長期の食事療法(タンパク質と食塩の制限,高カロリー)と透析療法を組み合わせ,さらに高度に障害されているときには腎臓移植を行う。
→腎炎
執筆者:佐藤 祥之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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腎臓のはたらきが低下して不要な老廃物や水分などの排泄が十分できなくなった状態を「腎不全」といいます。
腎臓の機能が半分以下になると、成長障害や貧血、骨の異常などを合併するようになり、末期状態になると、
小児の末期腎不全患者は、年間におよそ60人程度発生し、現在200~300人ほどが透析を受けているとされています。
原因疾患としては、以前1位であった
基本的に不可逆的(元にもどらない)で進行性のため、腎機能低下の進行をいかにくい止めるかが重要です。残念ながら末期の腎不全になってしまった場合は、十分はたらけなくなった腎臓の代わりに、
透析および支持療法の進歩に伴って、腎不全を患いながらも、幼稚園や学校に通ったり、旅行をしたりといった健常な子どもと同じ生活が十分可能になっています。しかし、よりよい精神・身体の発育のためには腎移植が最も望ましい治療法です。また、透析をへずに移植を行うこともあります。
腎不全に伴う成長発育の問題や骨の障害、心機能障害、精神的な問題などは、腎機能が低下してきた段階からすでに始まっている問題です。早い時期から、小児腎臓病の専門医と将来を見据えた相談をすることが望ましいと思われます。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 治療としては,安静(とくに発症後1~2週間),食事療法(食塩とタンパク質の制限など),感染巣の再燃を防ぐための抗生物質の投与などを中心とした薬物療法が行われるが,これらはすべて対症療法であり,特別の治療法はない。治癒率は児童では90%以上,成人では60~75%とされ,多くの場合,比較的短期間に治癒するが,6ヵ月以上過ぎてもタンパク尿や血尿が残って慢性腎炎に移行したり,まれに心不全,急性腎不全などによって急性期に死亡することもある。 なお,急性糸球体腎炎には,上記の溶連菌感染症あるいはそれ以外の感染症によるもののほか,種々の原因によって急激に発症し,数週間から数ヵ月で重症の腎不全に陥る急速進行性糸球体腎炎rapidly progressive glomerulonephritis(RPGN)などが含まれる。…
…末期腎不全などによって腎臓の機能が途絶したとき,他者の腎臓を移植して機能を代行させる方法。腎臓移植は1954年,アメリカのボストンで一卵性双生児間で行われたものが最初の成功例である。…
…高度の腎臓障害によって全身的な臓器症状を起こした状態をいう。急性または慢性腎不全の進行した状態で起こる。腎臓のおもな機能には老廃物のろ(濾)過,体液の調節(酸塩基平衡と電解質の調節),内分泌作用の三つがある。…
※「腎不全」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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