副腎皮質ステロイドホルモンとその作用

内科学 第10版の解説

副腎皮質ステロイドホルモンとその作用(副腎皮質)

 副腎皮質で合成されるステロイドホルモンは中間代謝物を含めると50種以上あるが,重要なものは,グルココルチコイドであるコルチゾール(cortisol),ミネラルコルチコイドであるアルドステロン(aldosterone)および副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)とDHEA-サルフェート(DHEA-sulfate:DHEA-S)である.
(1)ステロイドホルモンの作用機構(図12-6-4)
 ステロイドホルモンは脂溶性生理活性物質であり,内分泌腺より血中へ分泌され標的細胞に到達すると細胞膜を自由に通過し,細胞質に局在するステロイドホルモン受容体に結合する.ステロイドホルモンが結合すると,受容体は立体構造変化を起こし,熱ショック蛋白質(heat shock protein:HSP)が解離,核内へ移行する.ステロイドホルモン受容体はリガンド誘導性の転写因子であり,核内へ移行後,標的遺伝子のプロモーター上に結合,さらに共役因子という一群の蛋白質を介して基本転写装置へその転写活性化シグナルが伝達される.転写共役因子には転写を活性化するコアクチベーター(CBP/p300,SRC-1/TIF2など)と転写を抑制するコリプレッサー(N-CoR/SMRTなど)がある.これらのコアクチベーターはリガンド依存性に単独でステロイドホルモン受容体に結合するのではなく,巨大複合体として結合する.グルココルチコイドはグルココルチコイド受容体と結合してホモ二量体(homodimer)を形成し,標的遺伝子のプロモーター領域に存在するグルココルチコイド応答領域(GRE)に結合して転写を調節する.
(2)グルココルチコイドの生理作用
 コルチゾールはヒト副腎で分泌される主要なステロイドで,ストレスから生体を防御する働きがあり生命維持に必須のホルモンである.グルココルチコイドはグルコースの代謝調節作用を有することから名づけられたが代謝系ばかりでなく,免疫系,水・電解質・循環系に対しても多彩な作用を有する.
a.糖代謝
 肝臓でグルコース六リン酸ホスファターゼ(glucose-6-phosphatase)やPEPCK(phosphoenolpyruvate kinase)など糖新生系酵素を誘導し糖新生を促進,骨格筋や脂肪組織でのグルコース取り込みの低下,インスリン分泌の抑制などにより血糖を上昇させる.グリコーゲン合成酵素を誘導し肝のグリコーゲン蓄積を増加させる.
b.蛋白代謝
 末梢組織の蛋白を分解,生じたアミノ酸を肝に移動して糖新生を促進する.
c.脂質代謝
 脂肪を分解し,脂肪酸とグリセロールの産生を促進させる.慢性的グルココルチコイドの過剰は四肢の皮下脂肪を減少させるが,肝や腹腔内の脂肪沈着は増加させる.
d.免疫抑制・抗炎症作用
 薬理量のグルココルチコイドは免疫反応を抑制し,抗炎症作用を示す.その結果,感染症に対する防御機構が抑制される.ライソゾーム膜の安定化,ホスホリパーゼA2を抑制するアネキシンIの誘導,プロスタダランジンE合成酵素やシクロオキシゲナーゼ-2の発現抑制,炎症性サイトカイン(IL-1,IL-2,IL-3,IL-6,IL-8,TNF-αなど)の産生抑制などにより炎症反応を抑制する.ブラジキニン,ヒスタミン,プラスミノーゲン活性化因子の作用を阻害し,血管の透過性を減弱させる.多核白血球の骨髄からの放出を促進させるため,血中の多核白血球が増加する.Tリンパ球の減少,好酸球減少,胸腺,リンパ組織の縮小,遅延型過敏反応の抑制,Bリンパ球の抗体産生を抑制し血中ガンマグロブリンを減少させる.また,コラーゲンの形成,肉芽腫形成が障害され,創傷治癒が遅延する.炎症を惹起,促進する蛋白群の産生は核内因子κB (nuclear factor-κB:NF-κB)やアクチベーター蛋白1(activator protein-1:AP-1)などの転写因子が作用することが重要なステップとなる.NF-κBはその阻害蛋白であるinhibitor of NF-κB(IκB)に結合した状態では細胞質にとどまっているが,種々の刺激によりIκBが解離すると核内へ移行し炎症関連遺伝子群の転写を促進する.グルココルチコイド(GC)が結合したグルココルチコイド受容体(GR)はNF-κBやAP-1に直接結合することにより,NF-κBやAP-1の作用を抑制する(図12-6-5).この機構によりGCはグルココルチコイド応答領域(GRE)をもたない炎症性サイトカインや接着因子の遺伝子の発現を強力に抑制して抗炎症効果を発現する.
e.骨組織に対する作用
 グルココルチコイドは骨芽細胞の機能に対し二相性の作用を示す.生理量では間葉系細胞の骨芽細胞系への分化と増殖を促進する.一方,過剰量では骨芽細胞の分化の後期を抑制,アポトーシスを誘導,局所での増殖因子の産生の抑制,骨形成シグナルを抑制して骨形成を抑制し,ステロイド(グルココルチコイド)性骨粗鬆症を惹起する.
f.水・電解質・循環系に対する作用
 腎血流量と糸球体濾過率(glomerular filtration rate:GFR)を増加させる.また尿細管における抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)の作用と拮抗し,自由水クリアランスを増加させ水利尿作用を発現する.心臓刺激作用,交感神経機能維持作用,レニン基質の増加,腎でのカリクレインおよびPGE2産生障害,血管平滑筋細胞の1型アンジオテンシンⅡ受容体(AT1)の増加作用などにより血圧を上昇させる.また,胃酸分泌を増加させるため過剰量では消化性潰瘍を発症させることがある.
g.中枢神経に対する作用
 中枢神経細胞の刺激閾値を低下させて興奮性を高める.グルココルチコイド過剰では精神的に不安定で,多幸症,不眠をきたす.
h.ストレスホルモンとしての作用
 ストレス状態ではグルココルチコイド分泌は平常時の10倍にまで達し,循環器機能を高め,エネルギー代謝を亢進させて緊急状態に適合させる.
(3)ミネラルコルチコイドの生理作用
 ミネラルコルチコイドの代表はアルドステロンであるが,そのほかにデオキシコルチコステロン(DOC),コルチコステロン,18-ヒドロキシコルチコステロンもミネラルコルチコイド作用を示す.ミネラルコルチコイドのおもな標的臓器は腎臓で,その他,腸管,汗腺,唾液腺にも作用する.ミネラルコルチコイドの基本的な作用はミネラルコルチコイド受容体を介して腎においてNaを再吸収し,Kの排泄を促進することである.遠位曲尿細管(DCT)のチアジド感受性Na-Cl共輸送体(NCC)と集合管の上皮性Naチャネル(ENaC)に作用し,NaとKおよびNaとHの交換を促進させる.腎,心機能が正常なヒトでは,ミネラルコルチコイドによるNa貯留には限界があり,ミネラルコルチコイドの過剰が持続してもあるレベルでNa,水の出納が平衡状態に達しそれ以上のNa再吸収の増加とそれに基づくNa貯留はみられなくなる(エスケープ現象,escape phenomenon).これが,原発性アルドステロン症で浮腫を認めない理由とされている.NCCの著減をきたすことがエスケープ現象出現の一因である.Kの尿中排泄増加は腎のNa再吸収と連動しており,遠位尿細管に達するNaの量が少ないと,ミネラルコルチコイドが多くても低カリウム血症はみられない.ミネラルコルチコイド欠乏症では,体重減少,低血圧,高カリウム血症が,逆にミネラルコルチコイド過剰症では,高血圧,低カリウム血症,代謝性アルカローシスをきたす.また,ミネラルコルチコイドは心筋肥大・線維化を惹起する.
(4)副腎アンドロゲンの生理作用
 DHEA-SおよびDHEAは副腎アンドロゲンと呼称され,その90%以上が副腎で生合成される.コルチゾール分泌が加齢によりほとんど変化しないのと対照的に副腎アンドロゲンは20歳以降,加齢とともに直線的に減少する.DHEAはweak androgenであり,アンドロゲン作用はテストステロンの1/20程度である.DHEAは生体内でテストステロンやエストラジオールへ変換して作用する一方,軽度の抗糖尿病,抗動脈硬化作用が独自の作用として報告されている.[髙栁涼一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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