日本大百科全書(ニッポニカ) 「劇症型溶連菌感染症」の意味・わかりやすい解説
劇症型溶連菌感染症
げきしょうがたようれんきんかんせんしょう
A群溶血性連鎖球菌(A群溶連菌)の感染が原因となって突然おこる疾患。劇症型A群溶連菌感染症ともいう。数時間のうちに人体の軟部組織に壊死(えし)性筋膜炎や蜂巣織(ほうそうしき)炎をおこし、多臓器不全が生じてショック症状となり、致死率は30~70%ときわめて高い。欧米では、1980年代の後半から報告があり「人食いバクテリア」と報道されて騒がれた。日本では、92年(平成4)に千葉県の旭(あさひ)中央病院で報告されて以来、98年3月までに全国で166例発見されている。患者の多くは30歳以上で男女差はない。
A群溶連菌の感染経路や発病のメカニズムの詳細は未解明で、病気の症状や経過も大幅に異なるので、公表された旭中央病院の症例のなかから代表的なものを要約して以下に紹介する。
(1)病気の進行がもっとも早かった一例は45歳の男性で、下肢の痛みはあったが自分で車を運転して病院へ行き、待合室で待っているうちに下肢の腫(は)れが増して気分が悪くなり、ただちに入院したが急性心停止で死亡した。
(2)37歳の男性は急性腎(じん)不全で受診して透析を受け、その夜に右大腿(だいたい)部が著しく腫れたので切開したが、翌朝、手術部位に壊死が認められ、再手術。同日午後、皮膚の壊死はさらに拡大し周囲に水疱ができて破れ、壊死病巣は下肢から腹部に広がり、7日目に死亡した。
(3)分娩(ぶんべん)に合併した例では、分娩の直前までは正常。分娩中に胎児の心音が停止。分娩後1時間で産婦にショック症状がおこり、播種(はしゅ)性血管内凝固症候群がおこった。
治療には、抗菌剤のペニシリン系の薬が第一選択で、大量投与が必要とされ、アンピシリン、ゲンタマイシンなども併用される。
[柳下徳雄]