日本大百科全書(ニッポニカ) 「千代もと草」の意味・わかりやすい解説
千代もと草
ちよもとぐさ
江戸時代の儒教の啓蒙(けいもう)書。一巻。藤原惺窩(せいか)著とされているが、疑わしい。1788年(天明8)刊行。老母のために儒教(朱子学)の大意をやさしく説明するという体裁で書かれているが、「天道」の性格やその因果応報の説き方などには、前代に流行したキリシタンや仏教の投影も認められる。本書は、1691年(元禄4)に惺窩の著作として刊行された『仮名性理(しょうり)』を改題したものであり、さらにその『仮名性理』は、現存版本によれば、1650年(慶安3)以降、著者名を欠いたまま江戸時代を通じて版を重ねた『心学五倫書』とほとんど同じ内容である。こうした成立事情からもわかるように、本書は近世思想史上の重要な文献である。
[石毛 忠]