日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
南海トラフ巨大地震対策特別措置法
なんかいとらふきょだいじしんたいさくとくべつそちほう
南海トラフで最大級の巨大地震が発生した場合に備え、その災害から国民の生命、身体および財産を守るための防災対策を推進することを目的として制定された法律。正式名称は「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(平成14年法律第92号)。南海トラフ巨大地震とは、駿河湾(するがわん)から遠州灘(えんしゅうなだ)、熊野灘、紀伊半島の南側の海域および土佐湾を経て日向灘(ひゅうがなだ)沖までの地域並びにその周辺の地域の地殻の境界におけるきわめて広い領域を震源とする大規模な地震であって、科学的に想定しうる最大規模の被害をもたらすおそれのあるものをいう。
2011年(平成23)の東北地方太平洋沖地震は、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(日本海溝・千島海溝地震防災対策特別措置法)では想定されていなかったマグニチュード9クラスの地震であった。そのため南海トラフ周辺でも同様の巨大地震の発生の可能性が否定できないと考えられ、マグニチュード9クラスの地震に対する防災対策を推進することを目的に、2013年11月に成立した。
マグニチュード9クラスの巨大地震の防災対策として法律で定める実施内容の特色は、それまでの東南海・南海地震対策特別措置法や日本海溝・千島海溝地震対策特別措置法に比べ、防災対策事業に関する国からの交付金の増額や自治体の地方債起債の条件の緩和など財政的支援が強化されたことと、一部の事業については、早く整備を進めるために国が自治体のかわりに実施できるようにしたことなどが、新たに盛り込まれた点である。また津波の危険度が高い地域を対象に、新たな津波防災対策として緊急集団移転促進事業が組み込まれたことは、それまでの特別措置法にはない特色である。この法律により緊急に地震防災対策を推進する必要があるとして指定される区域は、大規模地震対策特別措置法により地震防災対策特別強化地域として指定された東海地域、東南海・南海地震対策特別措置法により東南海・南海地震防災対策推進地域として指定された東海、近畿、四国を含み、九州まで広がる広い範囲となる。
[浜田信生]