書画,とりわけ書跡の複製を作る方法。響搨(きようとう)ともいう。その方法は複写しようとする原本の上を透視できる紙で覆い,穂先の利く筆で細線を引いて文字の輪郭を正確に写し,輪郭線だけで籠字(かごじ)にとる,これを双鉤(集字)という。さらにその輪郭線内に原本の濃淡どおりに墨または朱を塗り入れることを塡墨または廓塡という。これらは印刷術や写真術が発達する以前の法書複製法で,最も唐代に盛行し,唐摹本(とうもほん)というのはこれを指す。太宗(李世民)が《蘭亭序》の真本を入手してこの方法で複写させ,諸王や重臣に与えたことや,則天武后の作らせた《万歳通天真帖》などはこの例として有名である。奈良時代,日本に請来され,《東大寺献物帳》に記載のある正倉院現蔵の王羲之《喪乱帖》などはすべてこの方法によったものであるが,真跡とほとんど見分けがつかないほど精巧なことで知られている。最近では電子顕微鏡による双鉤本の鑑別が欧米で発表されている。
執筆者:田上 恵一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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[東洋]
東洋とくに中国で模写・模本といえば,書画のそれを意味している。書の場合は〈双鉤塡墨(そうこうてんぼく)〉といって写そうとする文字の上に,それを透視しうる紙をのせ,文字の輪郭を正確に写したのち,その輪郭の中に墨をうめてゆく方法があり,これにより書体はもとより筆勢をも写しとるのである。結果,古今の名筆は忠実に模写され,原本にまさるとも劣らぬ価値を与えられ,後世に伝えられたのである。…
※「双鉤塡墨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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