中国・東晋(とうしん)(4世紀)の書家王羲之(おうぎし)の尺牘(せきとく)(手紙)の筆跡を集めたもの。一紙17行、長さ63センチに及ぶきわめて精巧な模写本。縦に簾(すだれ)状の筋目のある白麻紙(はくまし)に、原本を双鉤填墨(そうこうてんぼく)の手法で写したもので、唐時代の遺品と推定される。名称の由来は、本文一行目の「喪乱」の二字による。また本紙右端の紙の継目(つぎめ)に「延暦敕定(ちょくじょう)」(桓武(かんむ)天皇使用印)の印が三か所に押されている。現在、宮内庁保管。ほかに同種のものとして『孔侍中帖(こうじちゅうじょう)』(二紙九行、長さ45.5センチ、国宝、前田育徳会)、『妹至帖(まいしじょう)』(一紙二行、幅5.4センチ、個人蔵)の2点がわが国に伝存するが、『喪乱帖』はとくに保存がよく、王羲之の書法を忠実に伝える第一級の資料として名高い。これら3点はいずれも同じ巻物として奈良時代に唐から伝えられたもので、『東大寺献物帳(とうだいじけんもつちょう)』に記載する「王羲之書法二十巻」の一部と考えられる。
[名児耶明]
『『書跡名品叢刊37 王羲之』(1960・二玄社)』
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…今日,王羲之の真跡は一つも残っていないとされている。しかし,真筆に近いものとしては,日本に伝わる《喪乱帖(そうらんじよう)》と《孔侍中帖》とがある。これらは,隋代以前の搨摹本(とうもぼん)だといわれるが,その真跡を想像するに足る。…
…太宗(李世民)が《蘭亭序》の真本を入手してこの方法で複写させ,諸王や重臣に与えたことや,則天武后の作らせた《万歳通天真帖》などはこの例として有名である。奈良時代,日本に請来され,《東大寺献物帳》に記載のある正倉院現蔵の王羲之《喪乱帖》などはすべてこの方法によったものであるが,真跡とほとんど見分けがつかないほど精巧なことで知られている。最近では電子顕微鏡による双鉤本の鑑別が欧米で発表されている。…
※「喪乱帖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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