口腔カンジダ症(読み)こうくうカンジダしょう(英語表記)Oral candidiasis

六訂版 家庭医学大全科 「口腔カンジダ症」の解説

口腔カンジダ症
こうくうカンジダしょう
Oral candidiasis
(口・あごの病気)

どんな病気か

 口腔内に常在するカンジダ菌という真菌が異常繁殖して起こる病気です。従来、お年寄りや免疫力が低下した状態の人がかかる病気と思われてきましたが、最近では単に唾液分泌低下や、義歯の清掃不良といった局所の要因でも発症することがわかってきました。

原因は何か

 カンジダ菌(主としてカンジダ・アルビカンスという菌)の感染で生じます。長期間の抗菌薬による菌交代現象、生体の抵抗力の低下が感染の要因となるため、抗アレルギー薬、免疫抑制薬、抗がん薬、ステロイド薬の投与を受けている人などで生じるほか、口腔や義歯の清掃不良、唾液分泌低下なども関連します。通常、高齢者や幼児に起きますが、エイズなどの免疫抑制状態では若い人の口のなかにもみられることがあります。

症状の現れ方

 口腔に、ぬぐうと取れる白い苔状のものができる場合(偽膜(ぎまく)性)(図5)と、白苔(はくたい)がなく粘膜が赤くなる場合(萎縮(いしゅく)性)(図6)とがあります。従来、カンジダ症というと偽膜性が代表でしたが、最近では萎縮性が増えています。

 萎縮性は飲食時に舌にヒリヒリとした痛みがあるのが特徴です。ほかに義歯の下の粘膜が赤くなる、両側の口角が切れる、苦味や違和感を感じるなどの症状があります。

検査と診断

 白苔を生じる偽膜性は、視診により診断は容易ですが、白苔がなく粘膜が発赤(ほっせき)、萎縮する萎縮性は、舌痛症(ぜっつうしょう)や、鉄、亜鉛、ビタミンB12などの欠乏による特殊な舌炎(ぜつえん)との鑑別が必要になるため、血液検査によるこれらの判定と、カンジダ菌を証明するための培養検査や顕微鏡検査を行います。

治療の方法

 抗真菌薬であるうがい薬、塗り薬、内服薬を使用することで一般にはよく効きますが、それぞれの薬の使用方法をよく守ることが大切です。

 また、日頃から舌を主体とした口腔粘膜の清掃を心がけ、義歯の正しい清掃や管理、口腔乾燥がある場合には唾液分泌や口腔の保湿を促す口腔ケアが重要です。

病気に気づいたらどうする

 適切な口腔ケアを行っても症状が改善しない場合は、前述の薬剤を使用する必要がありますので、口腔内科口腔外科などで治療を受けてください。全身状態が悪い場合は、口腔カンジダ症を放置することで肺炎などの深部感染症を起こす危険が高まるため、注意が必要です。

北川 善政, 山崎 裕



口腔カンジダ症
こうくうカンジダしょう
Oral candidiasis
(皮膚の病気)

どんな病気か

 口腔内に生じたカンジダ感染症で、頻度は全皮膚粘膜カンジダ症患者の7%程度です。

原因は何か

 成人では、常在菌として保菌していたカンジダの増加と形態変化で発病します。皮膚カンジダ症以上に全身的な要因が問題になります。感染しやすくなる基礎疾患をもつ患者さん、ステロイド薬や抗生剤を内服している患者さん、高齢者に多く、とくにHIV感染者では初期の症状として重要です。

 一方、乳児に生じる鵞口瘡(がこうそう)は他の人(主に母親)からの感染とされています。全身的な問題はほとんどありません。

症状の現れ方

 舌や頬などの口腔粘膜にはがれやすい白苔(はくたい)が付着し、はがすとその下は発赤・腫脹しています。舌の疼痛、違和感、味覚異常を伴うことがあります。高齢者では本人が自覚していないこともあり、乳児例でも多くは軽症です。口角に浸軟(しんなん)した鱗屑(りんせつ)やびらん(ただれ)を伴う発赤局面を示すこともあります(カンジダ性口角びらん症)。

検査と診断

 直接鏡検(顕微鏡での検査)KOH法で行います。菌要素を比較的検出しやすい病気です。綿棒でこすり、それをスライドグラスに塗った検体でも菌を確認できます。

治療の方法

 イトラコナゾール(イトリゾール)が有効です。本症に対しては、カプセルではなく直接塗る効果も期待できる内用液を用います。口のなかでなるべく長く含んだ後に飲み込んでください。

 特殊な内服薬として、口腔・食道カンジダ症用で、ほとんど吸収されないミコナゾール(フロリード)ゲルがあります。1日1~2本を4回に分けて内服しますが、口腔カンジダ症では病変部に塗るだけでも有効です。

病気に気づいたらどうする

 本症が味覚異常の原因になっていることもあり、また本人が自覚していないこともあるので、舌などの口腔内に違和感がある時は、真菌検査を受けることをすすめます。

加藤 卓朗

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「口腔カンジダ症」の解説

こうくうかんじだしょうがこうそう【口腔カンジダ症(鵞口瘡) Oral Candidiasis】

[どんな病気か]
 カンジダという真菌(しんきん)(かび)の一種が、口腔粘膜(こうくうねんまく)の表面で増殖する病気です。カンジダ性口内炎ともいいます。
 カンジダは、いつも口の中にすみついている常在菌(じょうざいきん)の1つで、健康なときには増殖することはありません。
 しかし、なんらかの原因で口の中の粘膜の抵抗力が低下してくると、増殖してきます。
 乳幼児や老人に多くみられます。
[症状]
 口の中の粘膜の表面に、灰白色から乳白色の膜が点状や地図状に付着します。
 この膜は、頬(ほお)の内側やくちびるの粘膜、舌に発生しやすいのですが、口角部(こうかくぶ)(口の端)に発生して口角びらん(「口角びらん(口角炎)」)をおこすこともあります。
 膜は綿やガーゼでこするとはがれ、その下から、湿って赤くなった粘膜面が現われ、ざらざらして、ものを食べたときにしみたりします。
[原因]
 からだを衰弱させる病気、たとえば栄養失調症、糖尿病のときに発症することがあります。また、膠原病(こうげんびょう)(関節リウマチなど)のような免疫不全をともなう病気にかかっていると、おこりやすくなります。
 病気の治療のために、抗生物質、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬、免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)を長期間使用しているときや、放射線治療などでもおこることがあります。
 新生児や乳幼児の口腔カンジダ症は、母親が感染源のことが多いものです。新生児や乳幼児は、もともと感染に対する抵抗力が弱いために、母親が外陰カンジダ症や腟(ちつ)カンジダ症にかかっていると、原因菌が直接、感染することもありますし、よく消毒しなかった哺乳(ほにゅう)びんや乳首から感染することもあります。
 高齢者では、義歯(ぎし)の手入れがよくないと、義歯の下にカンジダの増殖がおこることがあります。
 診断のため、培養検査で菌の種類を確認するほか、病変部の組織を採取して、顕微鏡検査で菌体の確認が行なわれます。
[治療]
 原因となる病気があれば、その治療が必要です。
 カンジダに有効な薬剤を含んだうがい薬(アムホテリシンB含嗽剤(がんそうざい))でうがいをすると早く治ります。
 病変部にピオクタニン液や希釈(きしゃく)ルゴール液などを塗布することもあります。そのほか、口の中をいつも清潔に保つこともたいせつです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「口腔カンジダ症」の意味・わかりやすい解説

口腔カンジダ症
こうくうかんじだしょう

鵞口瘡

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の口腔カンジダ症の言及

【鵞口瘡】より

…口腔カンジダ症の初期で病変が口腔の内表面に起こるものをいい,急性偽膜性口腔カンジダ症とも呼ばれる。最初,白色ないし灰白色の点状の苔状物が生じるが,これははがれやすく,その下には発赤した粘膜面がみられる。…

【カンジダ症】より

…発症の誘因として,局所が蒸れたり湿潤するなど菌の発育条件に好ましい状態になった場合や,全身的に糖尿病,血液疾患,栄養障害,悪性腫瘍の合併ないし抗生物質,副腎皮質ホルモン剤,抗癌剤の長期投与などにより免疫力が低下した場合などが知られている。日常よくみられるのは口腔,腟などの粘膜や皮膚の病変で,口腔カンジダ症は鵞口瘡(がこうそう)ともいわれ,おもに新生児の口腔粘膜や舌にミルクかす状の偽膜をつくる。腟カンジダ症は,既婚女性に多く,外陰や腟の搔痒(そうよう)感と帯下がみられる。…

※「口腔カンジダ症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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