日本大百科全書(ニッポニカ) 「古神宝」の意味・わかりやすい解説
古神宝
こしんぽう
祭神の使用に供するため、古く神社に奉納され、現在まで伝わっている宝物類のこと。古神宝類ともよぶ。
神社の祭神を人間の男女になぞらえ、日常生活に必要な調度、衣類、装身具をはじめ、武器、武具、楽器の類を調進、奉納することが、いつごろから始まったかは明らかではない。記録のうえでは『三代実録』元慶(がんぎょう)8年(884)の条に、神琴2面を新造し、春日(かすが)大社に奉納した記事がみえ、また『延喜式(えんぎしき)』巻4に、伊勢(いせ)大神宮に神宝11種が記されていることなどから、平安前期には制度として実施されていたことが考えられ、その後も古制に倣って行われていたようである。神宝類の奉納は、(1)神社の式年遷宮や造営に際して調進される場合(熊野速玉(はやたま)大社、春日大社など)と、(2)天皇、皇族、貴紳の参詣(さんけい)の際に奉納するもの(春日若宮、厳島(いつくしま)神社など)とに大別される。
遺品による神宝の種類は手箱類、鏡や櫛(くし)をはじめとする化粧具類、束帯の袍(ほう)、下着の袿(うちき)、袴(はかま)などの衣装類、太刀(たち)、弓、矢、胡籙(やなぐい)(矢を入れて背に負うもの)などの武具類、その他さまざまである。これら格式の高い神社に伝わる古神宝類について共通していえることは、奉納されたその時代の工芸美術の粋を凝らしたもので、工芸史、美術史のうえからも貴重な資料であるばかりでなく、文化財としてもきわめて価値の高いことである。
[永井信一]