狂言の曲名。女狂言。大蔵流の曲名で、和泉(いずみ)流では『内沙汰(うちざた)』という。右近(シテ)は、左近の牛が田を食い荒らしたので訴訟にかけようと妻に相談するが、口下手な右近ではとても勝ち目はない。妻のアイデアで裁判の稽古(けいこ)をすることになったが、たちまちしどろもどろ、妻が扮(ふん)した地頭の叱声(しっせい)に気を失い、天を仰いで卒倒。やがて気がついた右近は、悔しまぎれに妻と左近の密通の事実を持ち出し嫌みをいうが、怒った妻に引き倒されてしまう。1人残された右近は起き上がり、妻に向かって悪態をつく(または空虚に笑って終曲)。「留(と)め」という狂言独特の劇終結法が、一こまの生活喜劇を人生の深奥をのぞかせる劇にまで高める効果を生む。和泉流では、訴訟での左近のいかにも世慣れた地頭とのやり取りを右近がまねてみせ、2人の性格の違いを際だたせる。
[油谷光雄]
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