和気広世(読み)わけのひろよ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「和気広世」の意味・わかりやすい解説

和気広世
わけのひろよ

生没年不詳。平安時代の医家。清麻呂(きよまろ)の長子で、医官和気家の元祖備前(びぜん)国(岡山県)藤木の人。8世紀の末、少判事に任ぜられ、式部少輔(しょう)を経て典薬頭(てんやくのかみ)となり、大学頭を兼任した。日本最初の薬物書『薬経太素(やっけいたいそ)』2巻を著した。これは草木・果菜・虫獣・玉石など254種の薬品をあげ、それらを唐の『新修本草』によって分類し、それぞれの気味主治を説いたものである。また大学寮の南に一族子弟のために弘文(こうぶん)院をつくり、内外の経書数千巻を保存した。和気広世の子孫は代々医を家学とし、広世の19世の孫明英の代に姓を半井(なからい)と改めた。

[大鳥蘭三郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

朝日日本歴史人物事典 「和気広世」の解説

和気広世

生年:生没年不詳
平安前期の官僚,学者。備前(岡山県)の人。和気清麻呂の長男。文章生に補せられたが延暦4(785)年事件(藤原種継暗殺事件と思われる)に連座して禁固。のち許されて式部少輔,大学別当となる。墾田20町(19.8ha)を大学寮に納めて勧学を請い,陰陽書や『新修本草』『黄帝内経太素』を講義した。父の遺志を継いで大学寮南の私邸(平安左京三条一坊)に経書数千巻を蔵する学府・弘文院を創設。また延暦21年,弟の真綱とともに最澄を神護寺に招いて法会を開き,最澄の入唐の際にも仲介に当たりその外護者となった。医学史上,医学の専門家で医書『薬経太素』を著したともされるが,これは史料曲解による誤りである。<参考文献>小曾戸洋「古代日本医家伝糾誤三題」(『日本医史学雑誌』33巻3号)

(小曾戸洋)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「和気広世」の解説

和気広世 わけの-ひろよ

?-? 奈良-平安時代前期の官吏,学者。
和気清麻呂(きよまろ)の長男。真綱,仲世の兄。備前(岡山県)の人。大学頭,式部大輔,左中弁などを歴任。大学寮南に経書数千巻を蔵する弘文(こうぶん)院をつくり,学問の興隆尽力。最澄,空海の外護者として仏教の発展に貢献した。

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世界大百科事典(旧版)内の和気広世の言及

【医学】より

…印刷刊行されたのは1854年(安政1)である。薬物書としては799年(延暦18)ころに和気広世が編集した《薬経太素》が永らく重要視された。これは,唐の《新修本草》に従い,254種の動・植・鉱物性薬の調製,保存および適応を記したものである。…

【弘文院】より

…和気清麻呂の長子広世が,平安初期(9世紀の初め)に大学別当(大学頭にあたるか)の職にあって大学教育につくすとともに,平安京大学の南にあった私宅を開いて設けた大学別曹(べつそう)。内外経書数千巻を蔵し,墾田30町を学料にあて,父の志をまっとうしたという。大学の南にはその後藤原氏の勧学院,王氏の奨学院が隣りあって開かれ(橘氏の学館院だけは離れていた),弘文院は和気氏諸生の別曹であったというから,平安時代初期に有力な氏族によって建てられた大学別曹(かつては私立学校とされたが,今では説が改められた)の一つ,しかもその中でもっとも古いものであり,和気氏出身の大学の生徒が,ここに寄宿し,勉学し,大学に通ったかと想像される。…

【最澄】より

…すべての人の成仏を理論的に説き明かす天台の教学に魅せられた最澄は,ながく山にこもってきびしい禅行とたゆまない学行をつづけ,その名がようやく都の人士に知られるようになった。 797年内供奉(ないぐぶ)十禅師に任ぜられ,802年和気広世の主催する高雄山寺(神護寺)法華会(ほつけえ)の講師に招かれた。斬新な講義の評判が天皇の耳にも達し,それが機縁で入唐求法(につとうぐほう)の還学生(げんがくしよう)(短期留学)に選ばれた。…

【和気真綱】より

…平安初期の官人。清麻呂の子,広世,仲世の兄弟。本姓は磐梨別(いわなすわけ)。兄弟ともに桓武天皇のもとで政界に活躍した。若くして大学寮に学び,文章生に補せられ,803年(延暦22)内舎人(うどねり)に任ぜられ,その後蔵人,内蔵頭,国守などを歴任した。兄広世は父の志をつぎ大学別曹弘文院をたてたが,同じころ真綱と広世は父の事業をつぎ高雄山に神護寺を建立し,最澄の法会を設け,その唐より帰朝後は灌頂の法壇を設立した。…

※「和気広世」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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