四目屋(読み)よつめや

精選版 日本国語大辞典 「四目屋」の意味・読み・例文・類語

よつめ‐や【四目屋】

[1]
[一] 江戸両国米沢町(東京都中央区東日本橋)にあった淫薬淫具専門の薬屋、四目屋忠兵衛の店。四つ目結(ゆい)を紋所とし、長命丸・女悦丸その他の特製薬を売っていた。四つ目結。
咄本・仕形噺(1773)ほれ薬「四つ目屋が秘伝いもりの黒やきを買て」
[二] 江戸吉原の妓楼の名。京町一丁目の四つ目屋善蔵と、同町川岸の四つ目屋彌兵衛の二軒があった。
洒落本・柳巷訛言(1783)「四つ目やのお客人へ茶やからのおくり物にうなぎのかばやき有」
[2] 〘名〙 ((一)(一)から転じて) 淫薬や淫具の称。よつめ
※雑俳・川傍柳(1780‐83)二「四つ目屋はきかぬと女房負おしみ」

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改訂新版 世界大百科事典 「四目屋」の意味・わかりやすい解説

四目屋 (よつめや)

江戸時代,セックスに関係ある薬品,器具を専門に売った店。場所は江戸の両国米沢町,薬研堀(やげんぼり)にあった。現在の東日本橋1丁目付近である。この店の創業時期ははっきりしないが,店の能書の口上に〈寛永3年(1626)〉とある。《富貴地座位》(1777)中に〈薬品之部 上上四ッ目屋忠兵衛,両国 おもしろさに齢(よわい)をのぶる長命丸〉とある。《江戸買物独案内》(1824)の〈小間物〉の部に〈日本一元祖 女小間物細工所 鼈甲(べつこう)水牛,蘭法妙薬 江戸両国薬研堀 四目屋忠兵衛 諸国御文通ニテ御注文之節は箱入封付ニいたし差上申す可く候,飛脚便リにても早速御届申し上ぐ可く候〉とある。この記事が〈〉の項になく〈小間物〉の項にあることは,性具のほうが本業だったことをにおわせる。文面から通信販売も行ったようである。営業品目を《川柳四目屋攷》所収の引札から引用する。器具として〈男姿京形同引はだ,女姿あづま形,懐妊せぬ道具甲形(かぶとがた),御(ぎよ)さぬ道具よろい形,りんの輪りんの玉,指人形せせり,風流笑ひちゃせん,其外いろいろ〉,薬として〈長命丸,女悦丸,きけいし(喜契紙),通和散,肥後ずいき,おらんだ蠟丸,嬉開玉露,おらんだ長けい香,男根・帆ばしら丸〉であり,意味不明のものもある。現代でいうなら,いわゆる〈大人のおもちゃ〉の類で,淫具(いんぐ),媚薬(びやく)の類であるが,効能のほどもさだかではない。

 〈長命丸〉はこの店の代表的商品であり,文芸作品にも散見する。《魂胆色遊懐男(こんたんいろあそびふところおとこ)》(1712)の〈内義をまげる肱枕(ひじまくら)〉には長命丸を使用すると射精がおくれ,水を飲んだ途端に射精する,という効能を利用したおもしろい話がある。大田南畝の《通詩選諺解》(1787),《叶福助略縁起》(1805),《旧観帖》3上(1810)などにも〈長命丸〉が登場している。〈長命丸〉の値段については,《旧観帖》に〈64文でも32文でも〉とある。現存する引札に〈56銅(文)〉というのもある。1文は現在のおよそ10円に当たる。
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世界大百科事典(旧版)内の四目屋の言及

【媚薬】より

… 惚薬(ほれぐすり)も媚薬の一つであるが,これを用いれば相手が特定の人物に恋慕の情をつのらせると信じられた。〈イモリの黒焼き〉はその代表的なもので,江戸時代に淫薬専門の四目屋(よつめや)と称する薬屋が売った撒布薬である。交尾期のイモリの雌雄を節をへだてて竹筒に入れると一夜のうちに節を食い破って交尾し,引き離して焼けば山を隔てていてもその煙が空中でいっしょになるという言い伝えから考案された薬だが,一説にはこの俗信のもとになった中国のイモリは日本のものとは別だという。…

※「四目屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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