引札(読み)ヒキフダ

デジタル大辞泉 「引札」の意味・読み・例文・類語

ひき‐ふだ【引(き)札】

商品の宣伝や開店の披露などを書いて配る広告の札。
「引越は容易に出来ますと云う移転会社の―であった」〈漱石
くじ引きの札。

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精選版 日本国語大辞典 「引札」の意味・読み・例文・類語

ひき‐ふだ【引札】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 商品の宣伝や開店の披露などの主旨を書いて諸方へ配る広告の札。ちらし。また、それを配る人。
    1. [初出の実例]「江戸中端々裏々迄、引札投込て通るを、いかなる安売ぞと」(出典:談義本・当世下手談義(1752)二)
  3. くじ引きの札。

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改訂新版 世界大百科事典 「引札」の意味・わかりやすい解説

引札 (ひきふだ)

一枚刷りの広告。今日の〈ちらし広告〉に相当する。京坂では早くから〈ちらし〉と称していた。引札の始まったのは元禄(1688-1704)近くになってからのことで,文化・文政期(1804-30)に盛んに行われるようになった。江戸時代から明治初期にかけての広告といえば,店舗に取りつける看板のれん物売りの口上のようなものを除けば,配る広告としての引札,はる広告としての〈びら〉があったくらいである。初期の引札では,越後屋が1683年(天和3)江戸の日本橋駿河町に開店したときの,いわゆる〈現金安売かけ値なし〉の引札が有名である。このような引札が出現した背景としては,商品流通の活発化や庶民の経済力の成長があった。文化・文政の爛熟期を迎えると,大店に限らず,古着屋,小間物屋,菓子屋,そば屋などの一般商店までが開店に際しては引札を配るようになり,また包み紙や紙袋を引札同様の媒体として利用し,商標・店名とともに宣伝文を刷り込む店も多くなった。江戸時代には平賀源内,大田蜀山人,山東京伝,滝沢馬琴など,明治に入ってからは河竹黙阿弥仮名垣魯文などの著名な文人・戯作者たちが宣伝文を執筆している。引札は,江戸では盛んだったが,京坂になるとずっと少なく,さらに三都以外になるときわめてまれで,一般化するのはだいたい明治以降である。配布方法は,江戸時代~明治時代には小僧人足を使って配るのが普通で,現在のように新聞に折り込む〈折込広告〉になったのは,大正末ころからのことである。そしてこのころから引札の名称もちらし広告,略してちらしに定着した。
広告
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「引札」の意味・わかりやすい解説

引札
ひきふだ

江戸時代の宣伝広告の一形式。今日(こんにち)のちらし、ビラにあたる。元禄(げんろく)(1688~1704)のころ、安売りの宣伝札を印刷して配ったことに始まるといわれ、のちに開店、改築の披露や商品の紹介にも広く利用された。特定の顧客に配布するほか、街頭で配り、これには専門のひろめ屋を使うことがあった。江戸の越後(えちご)屋呉服店では十里四方に引札を配ったという。人気戯作(げさく)者に宣伝文を書かせ、下絵に色刷りで花鳥を入れる店もあった。

[稲垣史生]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「引札」の意味・わかりやすい解説

引札
ひきふだ

ちらし,びらの古称。商品の売出し宣伝,店の開店披露などの広告として配布した印刷物のこと。くじ引きの札も同じ種類。江戸時代の中頃,看板だけではもの足りなくなって出現,当初は顧客だけを対象に利用されていた。印刷の様式も木版 (瓦版) の墨刷りから色刷りへと進み,さらに明治以降,印刷技術の進歩によって,無数のパンフレット,ちらしとして広く配布されるようになった。

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