固定資本流動資本（読み）こていしほんりゅうどうしほん（英語表記）fixed capital, liquid capital
fixes Kapital, zirkulierendes Kapital［ドイツ］

改訂新版　世界大百科事典

固定資本・流動資本 (こていしほんりゅうどうしほん)
fixed capital, liquid capital
fixes Kapital, zirkulierendes Kapital［ドイツ］

産業資本はたえず貨幣資本，商品資本，生産資本の形態をとりつつ価値増殖運動を行っているが，生産資本について，その価値移転ないし価値回収の違いを考察すると，2種類の資本が区別される。

　まず不変資本constant capital（ドイツ語でkonstantes Kapital）についてみると，そのうち機械，工場用建物等のような労働手段と呼ばれる資本の多くは，1回の生産過程でその使用価値的機能を全面的に失うのではなく，何回かの生産過程で固定的に機能した後，その耐久性に限度がきてはじめてその機能を消失する。これに対して原料や補助材料等の不変資本は，1回の生産ごとにその全使用価値を消耗し，それによって直ちに存在様式そのものを変形する。したがって前者の資本価値は，事実上の耐久期間が終わるまでの何回かの生産における新生産物に対して，徐々にかつ均等に移転され，その貨幣価値も徐々に回収されると考えられる。これに対して後者の資本価値は，1回の生産で全面的に新生産物に移転され，したがって1回転でその全価値も補てんされると考えられる。前者が固定資本であり，後者が流動資本である。なお生産資本中の可変資本は，生産資本としては労働力そのものであり，けっして価値移転を行うものではない。それは価値をまったくあらたに創造するものにほかならない。しかし，労働力商品価値の回収という視点からすると，それは1生産期間プラス1流通期間，すなわち1回転ごとに補てんされるので，あたかも不変資本中の流動資本と同じものであるかのように規定され，流動資本として一括されることになる。

　この両概念の区別についてとくに注意されねばならない点の一つは，この区別が生産資本についてであり，貨幣資本や商品資本についてではない，という点である。たとえば，生産過程で使用される機械は固定資本であるが，販売のために生産された機械はたんなる商品資本にすぎない。また他の一つは，この概念が生産資本の物理的固定性や流動性とは関係がない，という点である。たとえば，自動車は物理的にどんなに流動的であっても，それが運輸という生産過程で使用されるかぎり，固定資本にほかならない。
→産業資本　→生産資本
執筆者：侘美 光彦

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」